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ひとえきがたり

錦町(にしきちょう)駅
(山口県、錦川鉄道錦川清流線)

幻の鉄道を「とことこ」と

「きらら夢トンネル」内の壁画はトンネル内の600メートルに地元の幼稚園児や県内の大学生が描いた=山口県岩国市
「きらら夢トンネル」内の壁画はトンネル内の600メートルに地元の幼稚園児や県内の大学生が描いた=山口県岩国市
「きらら夢トンネル」内の壁画はトンネル内の600メートルに地元の幼稚園児や県内の大学生が描いた=山口県岩国市 地図

 錦川清流線の終着駅、2階建ての錦町駅から100メートルほど離れたところに、木造平屋建ての小屋がある。小屋の前にも錦町駅の看板が。しかし、レールは敷かれていない。頓挫した鉄路の計画地を走る55人乗りの赤い電気自動車「とことこトレイン」の駅だ。2両の客車を引き、雙津峡(そうづきょう)温泉までの約6キロの舗装路を時速10キロでゆっくり走る。

 トレインは出発後すぐに全長1796メートルの「きらら夢トンネル」に吸い込まれた。暗いトンネル内に小さな蛍光石を並べて描いた太陽や星座、花などの壁画が現れる。「きれい」「花火の絵だ!」。3分の停車時間、カメラを手にした乗客たちが次々に降りて楽しげに記念撮影した。

 錦町駅から島根県の日原(にちはら)駅まで延伸予定だった旧国鉄岩日(がんにち)線全線開通の夢は、1980年の国鉄再建法で完成前についえた。先に開業していた錦町―川西駅間は第三セクターの錦川鉄道に移管された。未開通区間にできていた高架橋やトンネルは20年以上放置され、「地元住民の散歩コースになっていました」と錦川鉄道運輸課の岡崎真紀さん(41)。「幻の鉄道を楽しんで欲しい」と同社がトレインの運行を始めたのは2002年のこと。山口県や愛知県の博覧会で使用した遊覧車を転用した。

 友人と訪れた松田静江さん(74)はトレインの常連だ。「美しい壁画や自然を人に話すたび、連れてこんにゃいけんじゃろ」。にっこり笑った。

文 中村さやか撮影 桐本マチコ 

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 錦川清流線は山口県岩国市の錦町駅と川西駅を結ぶ32.7キロ。

 錦町駅から徒歩5分のつみ菜cafeしろかね屋(TEL0827・72・3302)では、地元で採れた珍しい山菜や薬草が味わえる。季節によって15~40種類ほどが入ったカレーや、天ぷらが人気。(月)~(木)休み。

 とことこトレインの到着地、雙津峡温泉には地下1千メートルから天然のラドン温泉が自噴する。憩の家(TEL0827・73・0236)は、源泉掛け流しの日帰り温泉。食堂では飲用可能なこの温泉水でいれた「ラドンコーヒー」(360円)を提供する。(木)休み。

 

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錦町駅ととことこトレイン乗り場

 錦川清流線錦町駅=写真上=の近くに、とことこトレインの乗り場=同下=がある。トレインは(土)(日)(祝)と夏休みなどに、1日3~4往復運行。冬季運休。片道650円(清流線利用者は500円)。鉄道ホームページから予約可。

(2015年6月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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