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ひとえきがたり

桃源台駅(神奈川県、箱根ロープウェイ)

笑顔広げる5千個の手裏剣

姥子駅―桃源台駅を往来するロープウェイの下、富士山柄の折り紙で作った手裏剣を手にする今村真理子さん=神奈川県箱根町
姥子駅―桃源台駅を往来するロープウェイの下、富士山柄の折り紙で作った手裏剣を手にする今村真理子さん=神奈川県箱根町
姥子駅―桃源台駅を往来するロープウェイの下、富士山柄の折り紙で作った手裏剣を手にする今村真理子さん=神奈川県箱根町 地図

 「これ、どうぞ」。駅の案内窓口を訪れた小学生の姉弟がぱっと笑顔になった。手には折り紙で作った小さな手裏剣。手渡した箱根町観光協会職員の今村真理子さん(50)も思わずほほ笑んだ。

 今村さんが案内窓口に勤め始めたのは昨年4月。1カ月後、箱根山・大涌谷(おおわくだに)周辺の噴火警戒レベルが引き上げられ、立ち入り規制区域を通過する箱根ロープウェイは、早雲山駅―桃源台駅間の全線が運休となった。10月末、姥子(うばこ)駅―桃源台駅の一部が運行再開となったものの、2014年度は255万人だったロープウェイ利用客数は、大幅に減少した。

 大涌谷の名物・黒たまごが食べられず落胆する観光客を見て、「何かできることはないかと毎日考えていました」と今村さん。9歳の孫が遊ぶ姿から思いついたのが折り紙だった。富士山柄の折り紙を百円ショップで購入、帰宅後や休憩時間を使って折った。6月から今まで窓口で配った手裏剣の数は5千個以上だという。

 折り紙は、増え続ける外国人観光客との会話のきっかけにもなった。台湾から姉夫婦と旅行に訪れていたリー・インチンさん(30)は手裏剣を手にすると、忍者が投げるまねをしてみせた。「very nice!」。簡単な英語でも折り紙で心が通じ合う。

 箱根登山バスや海賊船のターミナルでもある桃源台駅。各社のスタッフがロープウェイの運行再開を願い、励まし合ってきた。「あたたかい仲間、チーム桃源台です」。駅は少しずつ活気と笑顔を取り戻している。

文 秦れんな撮影 伊ケ崎忍 

 沿線ぶらり  

 箱根ロープウェイは早雲山駅(神奈川県箱根町)から桃源台駅(同)を結ぶ4駅、4キロ。高低差303メートルの勾配を24分で運行する(現在早雲山駅~姥子駅までは運休)。

 箱根観光には、箱根フリーパスが便利。バスや電車など8種類の乗り物に乗れ、約50の観光施設で優待や割引を受けられる。新宿駅からの利用で5140円(2日間有効)。問い合わせは小田急お客さまセンター(03・3481・0066)。

 桃源台駅から徒歩10分の箱根ビジターセンター(TEL0460・84・9981)では、箱根の自然情報や火山の歴史を模型や映像などで学べる。

 

興味津々
ふわとろオムライス

 駅舎地下1階の桃源台ビューレストラン(TEL0460・84・8887)は地元産の食材を使ったメニューが豊富。人気のふわとろオムライス(1200円)は、御殿場産の卵を使用。窓際のカウンター席からは芦ノ湖を一望できる。午前10時~午後4時。不定休。

(2016年2月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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