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ひとえきがたり

新長田駅(兵庫県、JR山陽線)

地域を守り継ぐ 鎮魂の灯

新長田駅
ろうそくに次々と火がともされる。駅前に追悼の輪が広がった=1月17日午後5時20分ごろ、渡辺瑞男撮影
新長田駅 地図

 阪神大震災から19回目の1月17日午前5時46分。駅から徒歩10分ほどの小さな公園で人々は静かに手を合わせた。その中に、東京で印刷業を営む関根美子さん(73)の姿があった。毎年、追悼に訪れる。「よそうかと思う年もあるけど、やっぱりここに来ないと落ち着かない」

 震災直後、印刷機を携えて長田区に入った。炊き出しはどこか、仮設住宅に空室はあるか。被災者に欠かせない生活情報をまとめて、国際交流NGO「ピースボート」が発行したB4判一枚紙の「デイリーニーズ」。入浴や洗濯さえままならないなか、2カ月間毎日刷り続けた。部数は2千部から1万部にまで増えた。

 一面の焼け野原だった長田区に今では新しい住宅や建物が立ち並ぶ。「変わったなあ」。関根さんがつぶやいた。街のあちこちで、追悼の集会や行事が続く。

 夕方、駅前広場のろうそく約1千本に火がともった。「1・17 ながた」の文字が浮かぶ。今年で16回目の追悼イベント。和田幹司実行委員長(70)は「デイリーニーズ」を読み、地域のために何ができるかを考え始めた。その後、「ニーズ」紙を受け継いだ生活情報紙の取材と編集に関わるようになった。

 和田さんは駅前のイベントの運営を地元の学生たちに任せている。「若者に震災を伝え、コミュニティーを守りたい」。寒風にろうそくの火が消えても、誰かがまたつけ直す。ゆれる炎が人々の顔を赤く照らし続けていた。

 文 竹越萌子撮影 渡辺瑞男

 

沿線ぶらり

 JR山陽線は神戸駅と門司駅(福岡県)を結ぶ512.7キロ。大阪駅から姫路駅(兵庫県)までの東海道・山陽両線は神戸線と呼ばれる。

 新長田駅から徒歩10分の丸五市場は細い路地に店が軒を連ねる。シャッターを閉めている店も多いが、震災前の商店街をしのばせる。問い合わせは丸五市場事業協同組合(078・611・4077)。

 神戸港震災メモリアルパークは、震災で崩れた岸壁がそのまま保存されている。新長田駅の3駅先、元町駅から徒歩約15分。問い合わせは神戸海洋博物館(078・327・8983)。

 

 興味津々
カトリック夙川教会
 

 駅に隣接する若松公園内に高さ15メートルの鉄人28号像(©光プロ/KOBE鉄人PROJECT2014)がそびえ立つ。漫画家で原作者の故・横山光輝さんは神戸市出身。地元の商店主らが、震災からの復興のシンボルとして5年前に設置した。

(2014年1月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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