読んでたのしい、当たってうれしい。

ひとえきがたり

江差駅(北海道、JR江差線)

ニシンの栄華も昔 廃線を待つ

江差駅
穏やかな天気に恵まれた週末。わずかな停車時間に、鉄道ファンらが熱心に列車を撮影していた
江差駅 地図

 静かなホームに雪が降り続く。1日に6本しか到着しない列車から、カメラを手にした乗客があふれ出た。「江差線は今日で3回目です。最後に雪の季節が見たくて」。埼玉県から来たという男性が名残惜しそうに駅舎を眺めていた。

 函館から各駅停車で約2時間半。峠を越え、凍(い)てつく川を越え、日本海沿いへ。渡島(おしま)半島をゆっくりと走る江差線は、非電化区間の木古内(きこない)~江差駅間が5月12日に廃止される。さらに2015年度末の北海道新幹線開業に伴い、五稜郭~木古内駅間も第三セクターとなる。

 列車の到着を穏やかな笑顔で出迎えていた下里聡駅長(56)は一昨年4月に着任した。「その頃の利用者は全線で1日に30人ほど。廃線のニュースが流れたその年の9月からお客さまがどっと増え、驚いています」。週末ともなると、2両編成でも座れない乗客もいるという。

 〈江差の五月は江戸にもない〉。古くから地元で言いならわしてきた言葉を、今も町の人たちは自慢げに話す。江戸時代中期から明治にかけて、町はニシンの交易でにぎわった。ニシンは5月、北前船に買い付けられる。豪勢な商家がいくつも建てられた。しかし漁は次第に衰退、最盛期に3万人を超えた人口も今では8500人ほどに減った。

 町内で薬局を営む辻晴穂(はるお)さん(63)は仕事のかたわら、30年にわたり江差線の写真を撮り続けてきた。「幼い頃、祖父に連れられて見に行ったラッセル車や蒸気機関車を、今でもはっきり覚えています」。みずみずしい水田の脇を、紅葉の山の中を、駆け抜ける列車。辻さんが撮りためてきた写真の中に、江差線の四季が息づく。廃線まで残り3カ月あまり。「仲間たちとSLを走らせたいんです」。辻さんの最後の夢だ。

 文 永井美帆撮影 上田頴人

 

沿線ぶらり

 JR江差線は五稜郭駅(北海道函館市)と江差駅(江差町)を結ぶ79.9キロ。函館駅と江差線内の主要駅で、函館~江差駅が2日間乗り放題のありがとう 江差線フリーパス(3900円)を発売中。3月30日(日)まで。

 民謡、江差追分の資料を展示する江差追分会館(TEL0139・52・0920)へは江差駅から徒歩20分。4月末~10月末には実演も。500円(江差山車会館と共通)。午前9時~午後5時。(月)休み。

 湯ノ岱(たい)駅から徒歩約10分の湯ノ岱温泉(TEL56・3147)は珍しい炭酸泉。35、38、42℃の3種の浴槽があり、ぬるめの湯で長湯を楽しめる。350円。午前10時~午後8時。第3(月)休み。

 

 興味津々
カトリック夙川教会
 

 待合室内では、地元のレストラン「津花館」(TEL0139・52・5151)が新・江差駅弁当(870円)を販売((土)(日)のみ、平日は予約が必要)。ニシンの甘露煮やジャガイモカレーコロッケなど地元の味を楽しめる。包み紙は辻さん撮影の江差線の写真。

(2014年2月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

ひとえきがたりの新着記事

新着コラム