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ひとえきがたり

橋本駅(和歌山県、JR和歌山線)

善意が集まる小さな図書館

橋本駅
「こんなところに図書館?」と不思議そうにのぞき込む乗客も
橋本駅 地図

 改札を出て右手にすぐ、小さな図書館がある。その名も「ゆかいな図書館」。待合室を改造した。本棚の約1500冊は、自由に借りて持ち出せる。係員もいない。「いろいろ旅してきたけど、こんな待合室は初めて」。一人旅の途中という千葉県の女性は、ずらりと並ぶ背表紙を真剣なまなざしで追い始めた。

 待合室が図書館になったのは、1998年9月。当時はホームにあった待合室はガラスを割られたり、落書きされたりなどのいたずらが絶えなかった。それを防止しようと、市議会や教育委員会が駅に提案。駅前の清掃活動などをボランティアでしていた阪口繁昭さん(85)が中心となり、「モラルとセルフをモットーとする受付のない図書館」が生まれた。いまは世話人16人で運営している。

 「善意のかたまりの図書館なんです」と阪口さん。蔵書はすべて寄贈。地元はもとより全国から届く。着払いなどは一切ない。座布団も時計も匿名で贈られたものだ。開館から15年で約17万5千冊が集まった。一人で段ボール10箱を送ってきた人もいたという。

 現在、8月に開催する「戦争文庫」に向けて本を選んでいる。この夏で4回目となる取り組みだ。阪口さん自身も少年兵として戦争を体験した。「シベリア抑留の生き残りとしてせっかく持って帰ってきた命。なにかのお役に立てたら戦友も喜んでくれる」。強い思いが、全国から善意を引き寄せている。

 文 岩本恵美撮影 渡辺瑞男

 

沿線ぶらり

 JR和歌山線は和歌山駅(和歌山市)と王寺駅(奈良県王寺町)を結ぶ87.5キロ。橋本駅には、なんば駅~高野山駅を走る南海高野線も乗り入れる。

高野口駅から徒歩5分の高野口公園には約500本の桜が咲く。28日(金)~4月6日(日)の夜間はライトアップも。6日には物産品の販売や餅投げなどがある「桜まつり」を開催。問い合わせは橋本市商工観光課(0736・33・1111)。

 弘法大師によって開かれた高野山は、南海高野線で10駅先。来年は開創1200年を迎え、記念大法会が執り行われる。問い合わせは総本山金剛峯寺(56・2011)。

 

 興味津々
さんジオセット
 

 奈良との県境に近い立地から「ゆかいな図書館」の隣には奈良名物の柿の葉すしの店がある。さば7個入り(840円)、さば・さけ7個入り(977円)=写真=など。問い合わせは柿の葉すし本舗たなか橋本駅ショップ(0736・33・2000)。価格は4月に改定の予定。

(2014年3月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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