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ひとえきがたり

美濃赤坂駅(岐阜県、西濃鉄道市橋線)

黙々と石灰石を運ぶ5分間

石灰石を満載した貨車がJR貨物の機関車(中央)への付け替えを待つ。左端は美濃赤坂線の電車
石灰石を満載した貨車がJR貨物の機関車(中央)への付け替えを待つ。左端は美濃赤坂線の電車
石灰石を満載した貨車がJR貨物の機関車(中央)への付け替えを待つ。左端は美濃赤坂線の電車 美濃赤坂駅

 東京・神戸間約6百キロを結ぶJR東海道線には、岐阜県の大垣駅から2駅だけの支線がのびている。通称、美濃赤坂線。7分で終点の美濃赤坂駅に着いた。

 日中は乗降客もまばらな無人駅だが、側線が何本もあり、構内は広々としている。ここは石灰石輸送専用の私鉄、西濃鉄道の起点でもあるのだ。「営業区間2キロ。日本一短い貨物鉄道です」。社長の箕浦治夫さん(67)が笑った。

 駅の北にある金生山(きんしょうざん)では江戸時代から石灰石が掘られてきた。それを輸送するため1919(大正8)年に美濃赤坂線が開通。28(昭和3)年には地元の採掘業者らが発起人となり、金生山と美濃赤坂駅を結ぶ西濃鉄道が開通した。市橋線と昼飯(ひるい)線の2路線合計4.5キロ。市橋線では30年から45年まで旅客も運んだ。

 「私が入社した70年代は、構内は常に百両ほどの貨車でいっぱい。機関車から切り離された貨車に飛び乗ってブレーキをかけ、行き先別につなぎ替えて。毎日その繰り返しでした」。昨年まで40年あまり西濃鉄道に勤めていた中村千広さん(65)が懐かしそうに目を細めた。

 その後はトラック輸送が中心になり、昼飯線は2006年に廃止。市橋線も一部廃線になったが、西濃鉄道は今も1日3往復、石灰石を運び出している。列車は美濃赤坂駅でJR貨物にバトンタッチされ、不純物を取り除く製鉄の副原料として名古屋港の製鉄所に向かう。

 午前11時15分。名古屋から空の貨車が到着した。若い操車係が昔ながらの旗振りで誘導し、西濃鉄道の機関車に手早く交換する。「人数が少ないからみんな何でもやる。チームワークがいいですよ」と箕浦さん。民家の玄関先や神社の境内を抜ける、山まで5分の旅。静かな構内に発車の警笛が響いた。

文 伊東絵美撮影 浅川周三 

沿線ぶらり

 西濃鉄道市橋線は、ともに岐阜県大垣市の美濃赤坂駅と猿岩駅を結ぶ2.0キロ。

 市橋線は中山道57番目の宿場町、赤坂宿の古い町並みを横切る。金生山は古生代の化石の産出で知られ、中腹の金生山化石館(TEL0584・71・0950)では有孔虫のフズリナなど約700点を展示。美濃赤坂駅から徒歩15分。18歳以上100円(高校生は無料)。さらに15分ほど歩いた山頂の明星輪寺からは濃尾平野を一望。

 大垣は松尾芭蕉が「奥の細道」の旅を終えた地。大垣駅の南を流れる水門川に沿った全長2.2キロの遊歩道の終点には奥の細道むすびの地記念館(TEL84・8430)がある。19歳以上300円。

 

 興味津々
 
 

 美濃赤坂線をテーマにした曲を歌手の森昌子さんが歌っている。1982年発表のアルバム「立待岬 愛(いと)しき人へ」=写真=に収録された、その名も「美濃赤坂線」。哀愁のあるメロディーと20代の森さんの澄んだ高音が印象的だ。広田文男作詞、水木翔子作曲。

(2014年7月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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