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ひとえきがたり

観音駅(千葉県、銚子電鉄)

たい焼きも副業 頑張る鉄道

洋風の駅舎の中に切符売り場より広い店が。「冷めても皮がやわらかい」たい焼きは小倉あん(130円)など7種類
洋風の駅舎の中に切符売り場より広い店が。「冷めても皮がやわらかい」たい焼きは小倉あん(130円)など7種類
洋風の駅舎の中に切符売り場より広い店が。「冷めても皮がやわらかい」たい焼きは小倉あん(130円)など7種類 観音駅

 ガタゴトとホームに入ってきた電車の車掌に、芦崎純子駅長(34)が袋を手渡す。中にはたい焼きが4個。発車後、袋を受け取った女性客は「食べるのが楽しみです」。家族と観光で犬吠埼を訪れた帰り。大切そうにひざに乗せた。

 乗った駅で注文しておけば、「1個からお届けします」と芦崎さん。1975年末に発売され大ヒットした歌「およげ!たいやきくん」にあやかって、翌年から駅で売り始めた。すっかり有名になった「ぬれ煎餅(せんべい)」にさかのぼること約20年。銚子電鉄の副業第1号である。

 当初は駅員が店員を兼ねていたが、注文に追いつかず、スタッフを3人雇い入れた。1日に2千個近く売れ、1時間待ちの行列ができたこともあったという。

 今ではブームもすっかり去ったが、乗客の減少に悩む鉄道を支える大切な収入源だ。今年4月には銚子漁港に水揚げされるキンメダイにちなんで、お好み焼きの具が入った「金目焼き」を売り出すなど工夫を重ねている。入港したサンマ漁の船から、乗組員のおやつにと50個の大量注文を受けることもあるそうだ。

 「ただいま」。電車通学の小学生が店に声をかけた。「おかえり」と返事をしたのは勤続7年目の大木マユミさん(51)と2年目の大崎真知子さん(54)。10代からの友だち同士だという。「おいしかった、ありがとうと言われるのがいちばんですね」。大木さんの言葉に大崎さんもうなずいた。

文 土田ゆかり撮影 馬田広亘 

沿線ぶらり

 銚子電鉄はともに千葉県銚子市の銚子駅と外川駅を結ぶ10駅、6.4キロ。

 笠上黒生駅から徒歩10分のハーブガーデン・ポケット(TEL0479・25・3000)は約150種類を育てるハーブ園。年間を通してラベンダーを摘むことができる。11月ごろまでジャスミンも摘める。20本300円。(木)休み。

 銚子の漁師が使っていた漁具を展示している外川ミニ郷土資料館は、外川駅から徒歩1分。弁当箱「メンパ」は浮きの役割も果たし、いざというときに命を守る道具でもあった。(火)(水)休み。問い合わせは市観光協会(22・1544)。

 

 興味津々
 
 

 徒歩5分の飯沼観音堂(円福寺本堂)は坂東観音霊場の第27番札所。境内には「飯沼水準原標石」がある。利根川や江戸川の河川整備に必要な水位表記の基準となり、1872(明治5)年にオランダ人技師団の一員、リンドにより設置された。

(2014年7月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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