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ひとえきがたり

多宝塔駅(京都府、鞍馬山鋼索鉄道)

牛若号で200メートル2分 境内の旅

礼拝堂を兼ねる駅に向かって登るケーブルカーを、雪をかぶった24基の献灯が照らす
礼拝堂を兼ねる駅に向かって登るケーブルカーを、雪をかぶった24基の献灯が照らす
礼拝堂を兼ねる駅に向かって登るケーブルカーを、雪をかぶった24基の献灯が照らす 地図

 元旦に降り積もった雪が、朱塗りの駅舎を包んでいた。初詣に向かう人たちが次々とホームに降り立つ。

 京都市の中心部から北へ約12キロ、標高584メートルの鞍馬山。その中腹に鞍馬寺本殿がある。ケーブルカーは山門駅から多宝塔駅まで傾斜27度の急勾配を登る。「めっちゃ怖いで」という幼い娘に「手すりにつかまり」と若い父親。

 1957年の元日に運転を開始した。路線長は全国の鉄道で最も短い約200メートル。片道わずか2分だ。乗客定員31人の小さな車両が1両きりで、上下の駅間をピストン輸送する。足の弱い人にも気軽に参拝してもらおうと鞍馬寺が設置した、宗教法人が運営する全国で唯一の鉄道だ。運賃は無料。寺の建物や施設を維持するための協力費100円を寄進したお礼に乗ってもらう形をとる。濃紺の作務衣が駅員・乗務員の制服だ。

 「比叡山から昇ってくる朝日が車両から見えるんです」と運輸係長の神谷久代さん(56)。元旦は例年、本殿から拝するご来光に合わせて朝6時10分に始発を繰り上げる。今年は午後5時20分の下り最終までに2480人が乗車した。

 車両の愛称は「牛若号Ⅲ」。7歳からの10年間を鞍馬寺で過ごし、学問と兵法の修行に励んだという牛若丸(源義経)にちなむ。「義経ゆかりの史跡も巡りながら、山の気で充電してもらえたらいいですね」。鋼索鉄道部長の信楽美仁さん(50)が笑顔で勧めた。

文 石井広子撮影 渡辺瑞男 

沿線ぶらり

 鞍馬山鋼索鉄道は京都市左京区鞍馬本町の山門駅と多宝塔駅を結ぶ。標高差約100メートル。山門駅へは叡山電鉄鞍馬線鞍馬駅から徒歩5分。

 鞍馬線貴船口駅からバスで10分の貴船神社(TEL075・741・2016)では「夜の雪見特別参拝・積雪日限定ライトアップ」を2月28日まで開催中。夕暮れから午後8時まで。

 同線二ノ瀬駅から徒歩10分の白龍園は紅葉や桜見物を楽しめる庭園。春と秋に1日100人限定で一般公開される。出町柳駅で観覧券を発売予定。問い合わせは叡山電鉄(075・702・8111)。

 

 興味津々
ヒツジのレリーフ
 

 ケーブルカーの片道乗車票は蓮(はす)の花びらをかたどっている=写真右。用紙の色は毎月替わり、12枚集めると記念品がもらえる。NHK大河ドラマ「義経」が放映された2005年には牛若丸の絵柄があしらわれた=同左

(2015年1月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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