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建モノがたり

近畿大学アカデミックシアター5号館(大阪府東大阪市)

学生の行動力育てる「迷宮」

活動や成果を広く公開していく「知の劇場」。1~5号館まで仕切りを設けず、歩いているうちに様々な活動に出会える
活動や成果を広く公開していく「知の劇場」。1~5号館まで仕切りを設けず、歩いているうちに様々な活動に出会える
活動や成果を広く公開していく「知の劇場」。1~5号館まで仕切りを設けず、歩いているうちに様々な活動に出会える 三日月型の照明が館内をやさしく照らす。図書館の見学、近大生以外の利用登録は当面の間は見合わせている

迷路のような通路に、ちりばめられたガラス張りの部屋。キャンパス内にあるこの建物はなに?

 9学部と短期大学部合わせて2万人以上が通う近畿大学のメインキャンパス。力を入れる産学連携や実学教育の拠点として、学部を越えて集まれる場所があれば……そんな思いから複合施設アカデミックシアターは生まれた。

 五つの建物が連なる中でユニークなのが5号館だ。蔵書約7万冊の図書スペースと「アクト」と呼ばれるプロジェクト用の個室が42ある。事務棟、ホール、自習室などが入る1~4号館と四隅で接し、平面図で見るとうねる網目のよう。書架や閲覧席とアクトが交互に並ぶ通路が縦横各4本、格子状に交わり、各通路は交差点ごとに10度ずつ折れ曲がる。見通せない先に何があるのか、好奇心が刺激される。

 設計したNTTファシリティーズの畠山文聡さん(47)は「入り組んだ街路を歩いていると、ふとカフェや本屋を見つけたり、人と出会ったりすることがある。そういう都市のような空間を目指した」と話す。近畿大の施設設計を15年ほど前から断続的に担当、「大学のありよう」をともに検討しながら進めたという。

 企業との共同研究、学生起業の支援など毎年約30のプロジェクトが進行するアクトの多くは、8人ぐらいで使うのが適当な大きさ。「だれかが一方的に話すのでなく、フラットに議論ができるように」あえて小さく作った。壁は全面ガラスで、周囲の様子を感じとれる。全室が面する中庭側もガラス戸を開けられ、自然の風や光にも恵まれた環境だ。

 アクトを利用する文芸学部4年の増田簡さん(22)は、発達障害や学習障害の子どもへの支援サービス開発を目指している。入学当初は毎日のように図書館を利用、シアター主催の講座を受けるなどするうちに人とのつながりもできたという。「行き詰まった時、すぐに資料を探しにいける」と利点を話す。職員の寺本大修さん(37)は「学生主体のプロジェクトをさらに増やし、学生が行動力を発揮できる場になるよう支援したい」。

(伊藤めぐみ、写真も)

 DATA

  設計:NTTファシリティーズ
  階数:地上2階
  用途:教育・研修施設
  完成:2017年3月

 《最寄り駅》 長瀬


建モノがたり

 徒歩15分ほどの司馬遼太郎記念館(問い合わせは06・6726・3860)は、約2万冊の蔵書を高さ11メートルの壁面の大書架に展示。雑木林風の庭、庭から窓越しに見る書斎も。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。500円。(月)[(祝)(休)の場合は翌日]休み。

(2021年3月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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