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建モノがたり

東京工業大学附属図書館(東京都目黒区)

宙に浮く〝チズケ〟 機上で発想

地上の三角形は学習棟。「外からは学生の勉強してる様子が見え、内部からはキャンパスの様子が見える」と安田教授
地上の三角形は学習棟。「外からは学生の勉強してる様子が見え、内部からはキャンパスの様子が見える」と安田教授
地上の三角形は学習棟。「外からは学生の勉強してる様子が見え、内部からはキャンパスの様子が見える」と安田教授 地下1階の中央閲覧スペースは、頭上の斜面の地形がわかる斜めの天井。L字形の机が並ぶ

住宅地にあるキャンパス内に、宙に浮いているような、ガラス張りの建物。よく見ると地下へ続く入り口が。この建物はなに?

 東京工業大学大岡山キャンパスの正門を入ると目に入る附属図書館。設計した安田幸一教授は学長から依頼を受けた時、「大きなプレッシャーを感じた」と振り返る。なにしろキャンパス内には谷口吉郎や清家清、安田さんの師である篠原一男……と歴代教授を務めた名建築家の作品が並ぶのだ。

 しかしチーズケーキ、略してチズケと誰もが呼ぶ親しまれっぷりは名作にも負けない。「研究室で模型を作った時、学生が言い出して。みんなおなかすいていたんでしょうね」

 三角形にすることは敷地の条件から早めに決まったが、目立つ部分だけにデザインに悩んだ。そのころ講演で訪れたブラジルで見て回った建築に刺激され、帰りの機内で、浮いた三角形を三つのV字で支える構造を思いついた。同行していた構造設計担当の竹内徹教授とスケッチをやりとりし、「宙に浮いた状態で、宙に浮いたような地上部ができました」。

 2、3階のガラス面には、日よけのルーバーを設置、太陽光発電パネルをはめ込んだ。黒いパネルに学生たちは「チョコケーキになっちゃう」。将来白いパネルが開発された時のために、取り換え可能にしてある。

 じつはケーキ部分は自習席やグループ研究室が入る学習棟で、書架や閲覧席など図書館の本体は地下にある。高層化を避けたのは、圧迫感なく周囲に溶け込む外観にと考えたためだ。

 「見学者の感想で、自分が種になった気がする、というのがありました」と情報図書館課長の茂出木理子さん。「地下に埋められて発芽するような気持ちになったのでしょうか」。この日も館内には〝発芽〟に備えて勉強に励む学生たちの姿があった。

(宮嶋麻里子、写真も)

 DATA

  設計:安田幸一研究室、佐藤総合計画
  階数:地下2階、地上3階
  用途:図書館
  完成:2011年

 《最寄り駅》 大岡山


建モノがたり

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午前10時~午後8時((土)(祝)は7時まで)。(日)(月)休み。

(2021年9月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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