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建モノがたり

Wood Egg(ウッド エッグ)お好み焼館 (広島市西区)

ご当地食文化 発信するタマゴ

正面入り口。1階と2階の間はリング状の鉄骨が柱を支えるピロティになっている
正面入り口。1階と2階の間はリング状の鉄骨が柱を支えるピロティになっている
正面入り口。1階と2階の間はリング状の鉄骨が柱を支えるピロティになっている 最上階の野外テラスからは瀬戸内海や宮島が見える

広島湾に近い食品工業団地に、ニョッキリと姿を見せるドーム形の建物が……。この建物はなに?

 形もさることながら、ルーバー(羽板)に覆われた表面が印象的な建物は、オタフクソース(本社・広島市)の研修・展示施設「Wood Eggお好み焼館」。お好み焼きに欠かせないソースを作る同社が、お好み焼き店開業者向けの研修センター建て替えにあたり、一般向けの見学施設などを加えた情報発信基地を計画した。

 設計した建築家の三分一(さんぶいち)博志さん(53)の念頭には「自然との調和」があり、「森の中のような穏やかな空間がいい」と考えた。約1万枚の木製ルーバーは森の木々の葉を表す。

 平面図では円形の外壁を40方位に分割、季節や時間ごとの太陽の位置に応じて夏は強い日差しを遮るように、冬は日射を取り込むようにルーバーの角度を設定した。

 ルーバーによって弱められた風は八つの方位から取り込まれ、地上から頂上まで貫く階段部分を〝煙突〟として、自然換気が行われる。穏やかな瀬戸内地域とはいえ、沿岸部特有の塩害や強風から構造部分を保護する役目も果たす。自然になじむ建築の形は「必然的に角が取れ、丸みを帯びた」という。

 館長の新本顕三さん(51)は「『自然との調和』を表現した独創的な提案が、弊社の理念と合っていた」と話す。ルーバーの間から光が差し込む室内は、幹線道路の車の音も気にならない穏やかな空間になった。コロナ禍以前は、訪日外国人客も多く訪れ、お好み焼きの食文化に触れていた。

 食料難の戦後、市民の空腹を満たしたお好み焼き。三分一さんは「ものがない時代の知恵と工夫にあふれた食文化。この施設を通じて特にこどもたちに継承され、世界へ発信されていくことを望んでいます」。

(吉﨑未希、写真も)

 DATA

  設計:三分一博志建築設計事務所
  階数:地上5階
  用途:展示場、事務所
  完成:2008年

 《最寄り駅》 井口


建モノがたり

 2階のおこのミュージアムではお好み焼きの歴史や文化を体験しながら知ることができる。昭和30年代のお好み焼き店を再現したコーナーも。午前9時~午後5時(予約制)。無料。(土)(日)(祝)、お盆、年末年始休み。7日まで臨時休館。問い合わせはオタフクソースWood Eggお好み焼館ご案内課(082・277・7116)。

(2021年10月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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