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建モノがたり

ふじようちえん(東京都立川市)

屋上の上 どこまでも走ろう

子どもたちは屋上でかけっこをしたり、寝そべったり。寒空の下でも、元気に遊んでいた
子どもたちは屋上でかけっこをしたり、寝そべったり。寒空の下でも、元気に遊んでいた
子どもたちは屋上でかけっこをしたり、寝そべったり。寒空の下でも、元気に遊んでいた 屋上を突き抜けて伸びる大木も遊具に

ドーナツ形の屋上を、子どもたちが走り回る。それ自体が遊具のような園舎には子どもが遊びたくなる仕掛けがあちこちに。

 「駆け回る」。言葉通り、ふじようちえんの子どもたちは走って回っている。外周183メートルの楕円形の園舎の屋上を。走っても走っても元に戻るから、見守るほうも安心だ。

 約4700平方メートルと恵まれた広さの敷地。老朽化のための建て替えにあたり「走り回る屋根」の園舎を設計した手塚由比さん(53)は、「3歳だった娘を見ていて、子どもは走るのが好きだな、と思って」と振り返る。夫の貴晴さん(57)は、子どもと大人が自然に集まる場として円形を考えた。「炎を中心に人が輪になるキャンプファイアもそうでしょう?」

 屋上では「走る」だけではない。ウッドデッキが敷かれた床面を突き抜けてケヤキの木が3本。以前からあった大木だ。足元に張ったネット越しに階下が見えてちょっとスリルがあるが、子どもたちはお構いなしに木に取り付く。中庭の砂場に一直線の滑り台はもちろん大人気。

 足元が滑るため屋上で遊べない雨の日も楽しみがある。雨どいのない軒先から落ちる雨水を中庭のたらいに受けると、これが格好の遊び道具。ぬれるのも気にせず外へ出る子どもたちには自由に遊ばせる。

 教室を仕切る壁がないなど当時の幼稚園施設の基準と合わず、調整に苦心したという。だが国内での複数の受賞に加え、2011年には経済協力開発機構(OECD)の効果的学習環境センターが出版する学校施設好事例集で最優秀賞に選ばれ、世界的な評価も受けた。

 「当時は斬新といわれましたが、今は国内でも受け入れられるようになった」と現在は大学で教える貴晴さん。由比さんもこの仕事の後、施設基準を検討する仕事に携わった。

 園長の加藤積一さん(64)は、「最近の子どもたちはすべてが準備されすぎていると感じます。ここでは遊ぶ場を自分で選べる。選択する楽しさを知ってほしいです」と話す。

(高田倫子、写真も)

 DATA

  設計:手塚建築研究所
  階数:地上1階
  用途:幼稚園園舎
  完成:2007年

 《最寄り駅》 武蔵砂川


建モノがたり

 武蔵砂川駅から徒歩約20分の阿豆佐味天神社・立川水天宮境内にある蚕影神社の通称は「猫返し神社」。蚕の天敵ネズミを追い払う猫が守り神であることから、祈願すると迷子の飼い猫が戻るといわれるようになった。奉納された絵馬には愛猫家の感謝の言葉が書き込まれている。午前10時~正午、午後1時~3時30分。

(2022年2月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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