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建モノがたり

道の駅しょうなん てんと(千葉県柏市)

「3方向から正面」の仕掛け

どこが建物の正面か尋ねる人も多いという。「お気に入りの正面を見つけてください」と桔川さん
どこが建物の正面か尋ねる人も多いという。「お気に入りの正面を見つけてください」と桔川さん
どこが建物の正面か尋ねる人も多いという。「お気に入りの正面を見つけてください」と桔川さん 「大屋根ひろば」は、開放感のある半屋外空間。<br />芝生広場(現在は養生中)に面していて、週末には様々なイベントが行われる予定だ

千葉県北部、緑の多い手賀沼のほとり。対岸からも目に入る、連なる山のような屋根の建物は何?

 農産物直売が人気の「道の駅しょうなん」拡張計画の中で新設された新直売所棟「てんと」。手賀沼回遊へ導く「ゲート」の役割も期待されている。

 入り口は我孫子・柏・手賀沼の3方向に開けている。設計者の桔川(きっかわ)卓也さんは「どの方向から来てもきちんと正面の構えがある、裏のない建物をと考えました」と話す。

 建物の平面形状は正方形を基本に、一部が45度の角度で切り取られた五角形。さほど複雑には見えないのだが、実際に建物に入るときは自然と引き込まれるように感じ、逆に外へ出るときはパッと開放感がある。

 桔川さんによると、こうした感覚は、設計時に意図したある「仕掛け」と関連している。人の目が立体をとらえようとするとき、頭の中で無意識に遠近法のイメージを描き、実際には平行である建物の輪郭線が図上で1点に集まる「消失点」に自然と注目しているという。

 角や45度の鋭角が生まれたフロアの形、山形が連続する梁(はり)の一部を45度回転させた屋根や、屋根の高低差。桔川さんはこの建物に複数の消失点を同時に組み込み、人々が移動するにつれ、奥行き感や正面の意識が変化する空間にした。「言葉では伝わりにくい部分ですが、この仕掛けを無意識に感じてもらえればいいと思います」

 特徴的な屋根は、敷地内にあったイチゴ栽培ハウスがモチーフだ。「しょうなん地域の田園風景の中で美しく共存している」と感じた形は、遠くからも目に入る高さがありながら、まわりに溶け込む。

 リニューアル後の来場者数は、コロナ感染拡大で落ち込んだ前年に比べ約2倍に増えたという。道の駅副所長の木村美穂さんは「雑誌の撮影に使いたいとのお問い合わせもいただいています」と話す。

(伊東哉子、写真も)

 DATA

  設計:桔川卓也/NASCA
  階数:地上1階
  用途:道の駅(飲食・物販など)
  完成:2021年

 《最寄り駅》 我孫子駅からバス


建モノがたり

 建物内には直売所の「知産知消マルシェ」、地元農産物を使ったソフトクリームが人気の「ちゃのごカフェ」が入る。インフォメーションブースでは、コンシェルジュが周辺の観光情報を紹介。[前]9時~[後]6時(ちゃのごカフェは5時半ラストオーダー)。問い合わせは04・7190・1131。

(2022年5月31日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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