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建モノがたり

釧路市湿原展望台(北海道釧路市)

ヤチボウズの中 奇才の異世界

2階の展示室では湿原の動植物を映像やパネルで紹介する。建物内部は「天・人・海」の3層を表現するとされ、展示室は「人」にあたる
2階の展示室では湿原の動植物を映像やパネルで紹介する。建物内部は「天・人・海」の3層を表現するとされ、展示室は「人」にあたる
2階の展示室では湿原の動植物を映像やパネルで紹介する。建物内部は「天・人・海」の3層を表現するとされ、展示室は「人」にあたる [前]9時~[後]5時(4月~9月は[前]8時半~[後]6時)。年末年始休み

国内最大の釧路湿原を見晴らす丘に立つ、ロボットの頭のような建物。外観も十分目を引くが、中に入ると……。

 北海道の釧路湿原を一望する釧路市湿原展望台を設計したのは、「奇才」と呼ばれた釧路市生まれの建築家、毛綱毅曠さん(1941~2001)だ。

 モチーフは、湿原に見られる「ヤチボウズ」。スゲ類の株が地表から盛り上がり、坊主頭のようになったものだ。れんがふうのやぐらのような土台から円形の展望台が顔を出している。

 館内に入り、早速屋上の展望台へ。が、途中の2階展示室で驚きの空間が待っていた。

 分厚いカーテンのような、コンクリートの波打つ壁が天井から下がる。左右に6枚ずつ、重なり合って集まった先には大きな窓。壁と壁の間、階段状にガラス張りになった天井からの光とあいまって、荘厳ささえ感じる。

 展望台で10年以上働く川合宏明さん(62)は、展示室から上がる「おー」という歓声をしばしば耳にすると話す。

 同じ釧路市出身で毛綱さんと親交があった建築史家・駒木定正さん(71)は「芸術家的なセンスを持っていた。空間に対する天才だった」と話す。

 一方でデザインには細やかな工夫も見られるといい、展望台の土台部分を例に挙げる。壁は垂直ではなく八の字状に広がり、さらに上部は階段状に上へ広がっている。言われてみればこの角度のために安定した美しさが感じられる気がする。

 毛綱さんは三つの立方体を入れ子にしたデビュー作「反住器」をはじめ、その特異さが注目されたが、駒木さんは「古いものを大事にしていた」とも語る。神戸大での学生時代、北海道にはない歴史ある建築に接したのが原点ではと、同じく関西で学んだ駒木さんは推測する。

 異世界のような展示室を抜けて展望台に立つと、こちらも非日常感いっぱいの湿原の景色が広がっていた。

(栗原琴江、写真も)

 DATA

  設計:毛綱毅曠
  階数:地上3階
  用途:展望台、飲食店など
  完成:1984年

 《最寄り駅》 釧路駅からバス


建モノがたり

 釧路市内には毛綱毅曠さんの建築作品が9件ある。釧路駅から徒歩約12分、幣舞(ぬさまい)橋近くの商業施設釧路フィッシャーマンズワーフMOOには海の幸を味わえる飲食店や、土産物店が並ぶ。釧路川をはさんだ対岸には釧路センチュリーキャッスルホテルも。釧路市立博物館は駅からバスと徒歩で約20分。

(2022年10月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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