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建モノがたり

santo(サント)(広島県福山市)

「鞆鍛冶」の技術 未来につなぐ

たき火台を中心とした半屋外スペース。<br>表面が波板状のコンクリート壁で囲んだ部分はトイレやシャワースペース、キッチン
たき火台を中心とした半屋外スペース。
表面が波板状のコンクリート壁で囲んだ部分はトイレやシャワースペース、キッチン
たき火台を中心とした半屋外スペース。<br>表面が波板状のコンクリート壁で囲んだ部分はトイレやシャワースペース、キッチン 正面入り口から。<br>「santo」は、スペイン語で「聖なる」の意味で、中南米に思い入れのある早間社長が命名した

江戸時代の港湾施設が残る鞆(とも)の浦から車で約5分。工場が立ち並ぶ鉄鋼団地におしゃれな空間を発見。ここは何をするところ?

 潮待ちの港として栄えた鞆の浦は、鍛冶(かじ)の町でもあった。中世には刀剣、江戸時代からは船釘やいかりの製造が盛んに。そんな「鞆鍛冶」の流れをくむ工場群が集団移転した「鉄鋼団地」の一角に、ショールーム兼イベントスペースの「santo」はある。

 運営する三暁(さんぎょう)も船具製造に始まる金属加工会社で、現在は最新機器を導入し部品、金物製品を幅広く製造する。3代目社長の早間寛将さんが鍛冶の技術を応用した家具やアウトドア用品のブランドを立ち上げたのは、100年以上続くいかり製造業者の廃業のうわさを耳にしたのがきっかけだった。

 「実際に見に行ったら、すごい作り方。何百年も受け継がれてきた鍛造、鍛接の技術が途切れてしまう危機感に初めて直面した」と早間さん。工場を買い取り、職人から技術を継承しながら新しい商品を開発した。

 工場の一部をショールームにと計画、一般の人に鉄鋼団地に足を踏み入れてもらうには「突き抜けたものじゃないと」と考えた。そして設計を託したのは、福山市が拠点で海外でも活躍する前田圭介さんだ。「地元のルーツを大事にしたい思いが同じだった」

 両隣の工場が敷地ぎりぎりまで迫るのを利用して、建物の半分ほどは壁のない半屋外空間とした。正面の鉄の引き戸は、いかり工場時代に使われていたもの。囲炉裏ふうのたき火台は、「これだけは」と早間さんが要望した。

 鉄柱と天井の木組みなど異素材の組み合わせは、ディスプレーする家具とも共通する。「人が手でつくっている温かみ」も反映させたいと考え、すそ広がりの鉄柱は塩害対策で施したメッキ処理の色ムラをそのままに仕上げた。

 「どんなふうに使うかも含めて一緒に考えた空間」と前田さんは話す。「古いものと新しいものが対話しながらこれから50年、100年、この場所で何かを生み出していくといいなと思います」

(伊東哉子、写真も)

 DATA

  設計:前田圭介(UID/近畿大学教授)
  階数:地上1階
  用途:店舗、体験型施設
  完成:2022年

 《最寄り駅》 福山駅からバス


建モノがたり

 santoでは家具やアウトドア用品を販売するほか、たき火台で商品のフライパンの試用もできる。隣接の工場では熱した金属をたたき、フライパン(M・丸形、1万1100円)やお香立て(9100円)などに仕上げる鍛造体験も。[木]~[日]の[前]11時~[後]6時営業。電話080・9956・3341。

(2023年5月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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