三つの箱を積み重ね、箱をずらしたような形の建物が東京・蒲田にある。各階とも個性的なのは、なぜ?
JR蒲田駅から歩いて約5分。商業ビルやマンションが立ち並ぶ繁華街に、3階建てながらも存在感のある建物が目にとまる。
1階の倉庫は、灰色でモノトーンの扉が道路までせり出す。2階はレストランの個室を予定。植栽に包まれて静かな空間だ。大きなガラス窓がある3階は地域づくりの集会所。テラスもある。
階ごとに中心軸をずらして積層したように見えるのも、独特のアクセントを醸し出す。
「niwa」と名付けられた。「関わる人々が、自分の庭みたいにここをつくっていってほしい」。オーナーの田中裕人さん(45)は、そんな思いを込めた。
祖父の代から関わってきた街区で、地域の祭具を収める物置が置かれていた。一時は商業ビルを建てることも頭をよぎった。
だが、新たな鉄道建設の構想が持ち上がり、街の再開発に直面。
5年ほど前、祭具倉庫の役割を残す建築を決断した。「都市更新を見守る灯台のような存在にしたい」。そんな考えに共鳴したのが、旧知の建築家、古谷俊一さん(50)だった。
約20年前の社会実験のイベントで出会った2人。施主と建築家という関係性を超え、アイデアを出し合った。「植物は欠かせない。人は動植物と対話する力を持たないと」「雑多な蒲田らしさ。アジアの怪しさみたいなものがほしい」
3階は街の更新に関わる人々の研究スペースに。中心軸からずらしたのは「ふわっと浮いたようにし、ここでしか見られない新しい価値を生んでみたかったから」と古谷さん。
「niwa」は未完成だという。「街のVOID(空白地帯)で、人々の思いや思考の受け皿でありたい」との願いが込められ、携わった全員が「完成した時が一番いい状態になるのはやめよう」と約束した。
いまはレストランのオープンに向けて調整中。田中さんは言う。「5年、10年をへてより魅力的になっているはず。変化する楽しさ、美しさをめざしたい」
(片山知愛)
DATA 設計:古谷デザイン建築設計事務所 《最寄り駅》:蒲田 |
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