かつて高野山への参拝客でにぎわった和歌山県の高野口。5代にわたって修理を重ねながら、守ってきた元旅館がある。
大阪・南海なんば駅から高野線に乗って橋本駅でJR和歌山線に乗り換え、二つ目の高野口駅。無人の駅を出ると、目の前に大きな木造3階建ての建物が現れる。
明治に開業した元旅館「葛城館」。屋根の正面を装飾した三角形の「千鳥破風(はふ)」と曲線的な「軒唐(のきから)破風」が人目を引き、ガラス戸が上階まで連なり壮観だ。
最初は2階建て、大正のころに一部を残して3階建てに建て替えられたようだが、創業者から数えて5代目の大矢裕さん(63)は「はっきりした年代は分からない」という。2001年に「旧葛城館」として国の登録有形文化財になっている。
高野口駅は明治後期に紀和鉄道の名倉駅として開設され、高野山への参拝客の登り口の駅としてにぎわった。10軒以上の旅館があり、駅前に人力車がずらりと並んだという。大正末期に、今の南海高野線が高野山のより近くまで開通し、高野口駅を利用する参拝客は減った。
葛城館は昭和に入ると広い座敷をいかして結婚式や宴会に使われ、平成の初め頃まで営業を続けた。その後も建物は維持されていたが傷みは激しく、一部は傾いていた。
大矢さんは「同じ建物は二度と造れない」と大改修を決意。宮大工に入ってもらい半解体修理し、別棟の2階建て部分を住宅として建て直した。
その後は町おこしのイベントの会場などとして貸し出していたが、昨春から妻の由美さん(61)と夫婦で「カフェ葛城館」を始めた。2階の3部屋をつなげた20畳の座敷に椅子とテーブルを置いて、メニューに手作りの抹茶レアチーズケーキなどが載る。
原則金、土、日、月曜日の午後1時~6時の営業で、オープン以来約2万人が訪れ、開店前に行列ができることもある。SNSでも取り上げられ、九州など県外からやってくる客もいるという。由美さんは「建物に興味を持ってくれる人が多い。町の人から高野口に活気が戻ってきたと言ってもらえる」と喜ぶ。
葛城館2階の少しゆがんだレトロなガラス越しに、明治期のこれまたレトロな駅舎が見える。
(鈴木芳美、写真も)
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DATA 設計者:不明 《最寄り駅》:高野口 |
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徒歩2分の銭湯「高野口乃湯」(☎0736・20・1728)は築約130年の古民家を改修して、昨年12月にオープンした。わき水を使用した湯が自慢で、陶板画の数々が浴場内を飾っている。[前]10時~[後]11時。第2、第4[火]休み。大人490円。