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アートリップ

アローの木 
東恩納(ひがしおんな)裕一作(東京都渋谷区)

逃げ道示す、無数の矢印

矢印の向かう先は、青山通り沿いの青山学院大学=相場郁朗撮影
矢印の向かう先は、青山通り沿いの青山学院大学=相場郁朗撮影
矢印の向かう先は、青山通り沿いの青山学院大学=相場郁朗撮影 ヒロ杉山「TUBE ARROW」。宇田川町の清掃事務所の壁面にあり、明治神宮の方向を指している=相場郁朗撮影

 東京・渋谷駅から原宿駅へ。若者でにぎわう明治通りを歩いていると、広場に、カラフルな矢印が飛び交う「木」が現れた。高さ約4メートル、重さ約760キロ。鉄でできている。

 本作は2017年に始まった「シブヤ・アロープロジェクト」の作品の一つ。災害時に一時退避場所への道順を示す矢印(アロー)を芸術家に表現してもらう渋谷区の取り組みだ。

 作者は現代アートの作家、東恩納裕一さん。イワシの群泳から着想を得た。退避場所の方向を示す多数の矢印は、非常事態が起きていることを暗示し、避難先に向かう人々を表してもいる。「イワシは敵から身を守るために群れをなして泳ぐ。危機的状況の時にみんなで固まって一つの方向を目指すイメージです」と東恩納さんは話す。

 当初はソーラーパネルで発電し、停電時に矢印を発光させようと考えた。だが、管理や技術的な課題から断念。高さや重量などの制約が多い中、20個以上の模型を作って試行錯誤を重ね、形にしていった。

 作家の選定や作品の選考を手がけるのは、選曲家の桑原茂一さん(68)。「日本は地震が多い国ですが、それをネガティブなものではなく、人の心を温かくするような見せ方をすることにアートの役割がある」と語る。

 見上げると、一つ一つのアローが力強い。「命を救う」頼もしさを感じた。

(渋谷唯子)

 シブヤ・アロープロジェクト

 渋谷区が共催する実行委員会が外部のクリエーターと協力し、パブリックアートと防災の二つの役割を果たす作品を制作する。現在は本作の他、ヒロ杉山、森本千絵の計3作品が渋谷駅周辺に設置されている。

 2011年の東日本大震災を機に桑原茂一さんらが始めた、寄付を目的とするアートプロジェクト「Rockn’ Arrow」が協働のきっかけとなった。

 《作品へのアクセス》 同駅宮益坂口から徒歩5分。「渋谷キャスト」前。


ぶらり発見

アイミティー

 作品の前にある、渋谷キャスト(TEL03・5778・9178)は飲食店やアパレルショップのほか、オフィス、多目的ホールなどを含む複合施設。広場ではアートやマルシェなど多彩なイベントが開催されるほか、平日は日替わりのキッチンカーでにぎわう。

 作品から徒歩6分の紅茶の店 ケニヤン(TEL3464・2549)は日本紅茶協会から「おいしい紅茶の店」に認定された喫茶店。イチオシは、濃いめの紅茶にミルクがたっぷり入った「アイミティー」(写真、400円)。午前11時半~午後10時。

(2019年2月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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