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アートリップ

うつろひ
 宮脇愛子作(群馬県高崎市)

風や光の変化を映す

太さや長さの違う5種類のワイヤを組み合わせた=2011年、松田昭一撮影
太さや長さの違う5種類のワイヤを組み合わせた=2011年、松田昭一撮影

 強い風が吹いて新緑の木々が揺れる。群馬県高崎市の県立公園「群馬の森」正面入り口を進むと、左手に細い線が交差したようなオブジェが見えた。県立近代美術館の一辺36メートルほどの人工池に近づくと、台座に固定された28本のステンレスワイヤが、縦横無尽にゆるやかな円弧を描いている。風が吹く度に無数の弧が揺れ、四方を回ると曲線の重なり方が変わる。水面とワイヤに太陽が反射して、きらめく光の線が飛び交うようだ。

 作者は彫刻家の宮脇愛子(1929~2014)。真鍮パイプやガラス板を積み重ねた立体作品や、1970年代末から手がけたワイヤを空間に張りめぐらす「うつろひ」シリーズが知られる。何度か同美術館の展覧会を訪れていた宮脇に、中山公男館長(当時)が依頼し、92年に設置された。

 同館学芸員の田中龍也さん(48)は、「表現したのは、ワイヤを介した風の動きや反射する光。木々の緑や風、光を取り込んで、周囲の環境によって様々な表情を見せます」と話す。週4回公園を散歩するという同市在住の田中昭史さん(89)は、「曲線に光が当たって、しなやかな噴水が何本もふき出しているよう。また見たくなります」。夕暮れ時、ワイヤは夕日に照らされ、黄金色に輝いた。冬に吹くからっ風、夏の深緑など、刻々と移ろう自然や時間の一瞬の変化を教えてくれる。

(上江洲仁美)

 群馬の森

 26ヘクタールほどの敷地内には、群馬県立近代美術館や県立歴史博物館、全国の都道府県の木を集めた「ふるさとの道」などがあり、週末は多くの家族連れが訪れる。

 《アクセス》 高崎駅からバスで約30分。


ぶらり発見

とまとちーずカレー 作品から徒歩6分。麺処 彼方此方(問い合わせは027・346・6922)では、麺に絡まるピリ辛のカレーにトマトの酸味が爽やかな「とまとちーずカレー」(写真、そば1070円、うどん970円)や、だしの利いた「冷しダシそば」(780円)が人気だ。

 高崎駅西口からバスで20分の慈眼院(問い合わせは322・2269)には、高さ41.8メートルの高崎白衣大観音がそびえる。観音像の肩の高さまで登ると、高崎市街地や関東平野などを一望できる。胎内拝観料300円。

(2019年5月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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