読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

「赤阪 旅舎招婦ノ図(りょしゃしょうふのず)」

歌川広重 東海道五拾三次展(名古屋ボストン美術館)

「赤阪 旅舎招婦ノ図(りょしゃしょうふのず)」
天保4(1833)年ごろ 横大判錦絵

 風景が中心の「東海道五拾三次」の中で、室内をテーマにした珍しい作品。赤坂宿(現愛知県豊川市)の旅籠(はたご)、大橋屋が舞台だ。「内部をのぞき見るような描写で、臨場感があります」と学芸員の鏡味(かがみ)千佳さん。

 前景中央に蘇鉄(そてつ)と石灯籠(いしどうろう)を配し、左右に異なる情景を描いている。左側には、座敷に寝転んでくつろぐ旅人の姿。体のこりをほぐす按摩(あんま)や食事の給仕をする女性らとともに、あんどんや手ぬぐい掛け、たばこ盆などが描かれ、当時の風俗が垣間見られる。一方、右側には布団が積まれた部屋で、蠟燭(ろうそく)のあかりのもと身支度をする飯盛女たち。

 大橋屋に実際に泊まったといわれる広重。旅の疲れを癒やし、次の道中への活力を蓄える。そんな旅籠の魅力を余すところなく伝えている。

(2017年4月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

美博ノートの新着記事

  • 「工藝(こうげい)」第100号(「工藝」屛風(びょうぶ)・部分) 民藝運動の主導者、柳宗悦の唯一の内弟子。鍛えられた「直観力」とは。

  • あやめの衣 洋画のなかに日本の美。シンプルな構図で映える女性と江戸の小袖

  • ぬいとり 開催中の展覧会から注目作品をご紹介する「美博ノート」。全3回で、一宮市三岸節子記念美術館で開かれている「岡田三郎助 優美な色彩・気品ある女性像」を紹介します。

  • 三岸節子肖像 開催中の展覧会から注目作品をご紹介する「美博ノート」。今回から3回、一宮市三岸節子記念美術館で開かれている「岡田三郎助 優美な色彩・気品ある女性像」を紹介します。

新着コラム