本草図説
「本草図説」は195冊に及ぶ、江戸時代のカラー博物図鑑。市井の本草家・高木春山(?~1852)がただ一人で、20年以上かけて作成した。植物をはじめ魚、鳥、獣、虫、鉱物、自然現象にいたるまで万物を描いた精密な肉筆画に、見聞や書籍に基づいた解説が付く。
唐織の下に着る「着付」として用いられる摺箔は、繻子織の絹布に金や銀の箔を接着して文様を施す技法の名称でもある。本作は、浅葱色の生地の表全面に三角形が連なった銀箔が施され、魚のうろこのようにも見える。
こうした文様の摺箔は、嫉妬や執着心を表す役柄で多く用いられる。「源氏物語」を題材にした「葵上」では、六条御息所の生霊を演じるシテが身につけ、恋敵である葵上への嫉妬心を表現している。
本作は江戸時代の作品を、山口能装束研究所(京都市)の山口憲所長が復原(ふくげん)した。同研究所は当時の材料や技術を研究し、多くの貴重な能装束を現代によみがえらせている。今展ではオリジナルと、復原された装束を同時に鑑賞することができる作品もある。
学芸員の社本沙也香さんは、「復原作品を通してオリジナル制作当時の色合いや風合いを想像し、能装束に込められた美意識や、背景にある文化を感じてほしい」と話す。