読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

蒔絵螺鈿筥「初冠雪」

和の饗宴 神宮美術館アーカイブス(式年遷宮記念神宮美術館)

室瀬和美 直径24×高さ8.5センチ
室瀬和美 直径24×高さ8.5センチ

 ナナカマドの実にうっすら積もる雪が冬将軍の到来を告げる。蒔絵の人間国宝・室瀬和美が青森を訪れた際目にした光景をモチーフにした作品だ。

 赤い実は螺鈿、雪は砕いた卵殻。見る角度によって表情が変わる螺鈿や金粉、卵殻の白と磨き込まれた漆が一体となり「吸い込まれるような表情です」と学芸員の中村潔さんは話す。

 葉の一枚一枚が浮かび上がるような立体的な表現は、室瀬が得意とする「研出蒔絵」による。漆で描いた文様が固まる前に金粉などをまく。乾燥後さらに漆を重ねて塗り、表面を研磨。この工程を繰り返すことで奥行きが生まれる。「気が遠くなるような多くの工程を想像しながら見ていただきたいです」

 20年に1度行われる伊勢神宮の式年遷宮に際しては文化勲章受章者、文化功労者らから様々な美術・工芸作品が献納される。今展ではその中から2012年までに納められた35点を紹介する。

(2022年3月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

美博ノートの新着記事

  • 上絵金彩綾棒踊(あやぼうおどり)図花瓶 山吹色から青色へ。本作品にも見られる鮮やかなグラデーションを得意としたのは明治時代に活躍した京都の窯元・九代帯山与兵衛(1856~1922)。技巧的な造形と華麗な色使いが、海外で高い評価を得た。

  • 釉下彩透彫(ゆうかさいすかしぼり)朝顔文花瓶 全体を包み込むように、大輪の花を咲かせる朝顔。透かし彫りが涼やかな本作品は、京都の窯元・七代錦光山宗兵衛(1868~1927)が、新しい技術や流行を取り入れて制作した。

  • 上絵金彩花文麒麟鈕(きりんちゅう)大香炉 墨色で丹念に描かれた木目模様。ふたには透かし彫りが施され、最上部に構える麒麟(きりん)の小さな牙が何本も見える。

  • 徳川家康画像(部分) 徳川家康晩年の肖像は、九男で尾張家初代の徳川義直(1600~50)が描いたものだ。面長でふくよかな顔、福耳、小ぶりな口などの特徴を捉えている。

新着コラム