京橋竹がし
街灯もなかった江戸時代、人々に夜の闇はどう見えていたのか。歌川広重の浮世絵から探る
行灯(あんどん)に導かれ水辺を進む赤襟を返した芸者。その足元を照らしつつ先を行くもう一人の存在も暗示される。
シルエットの葉桜で天を覆った星空には、何やら模様が見て取れる。「歌川広重は木版の板目を意図的に写し、渦巻くような漆黒の闇を表現しています」と、学芸員の鏡味千佳さん。木目の夜空に輝く星が川面にまで無数に映っており、粋だと話す。
ここはかつての水路、山谷堀が隅田川に注ぐ場所。奥のこんもりとした緑の小山は、今も「待乳山聖天(まつちやましょうでん)」がある標高約10メートルの丘だ。その間に見えるのは、山谷堀にかかる今戸橋のシルエットと、橋のたもとにあった有名料亭の明かり。対岸に目を凝らすと、船も見える。隅田川から山谷堀をさかのぼり、船で遊郭吉原へ行くのがしゃれた遊び方だったという。
夜の光を表現した浮世絵が並ぶ本展。電気がなかった時代の日没後の世界に描かれた、今はなき文化を紹介している。