池の水面に、クリスタルの宮殿がゆらめいているように見える。自然豊かな東山動植物園内の植物園温室前館は、国の重要文化財に指定された、現存する日本最古の公共温室だ。
鉄骨とガラスの造形で五つの温室からなる建物は、幅66メートル、高さ12メートル、広さは約600平方メートル。1936年の完成以来、「東洋一の水晶宮」と呼ばれる。当時の市長が東洋一の植物園を目指したという記録が残る。
天井に届きそうなヤシや、食虫植物のウツボカズラ、千年以上生きることもあるキソウテンガイなど約400種の熱帯・亜熱帯植物が育てられている。中央ヤシ室では、開館当初から育てている高さ約7メートルのシンノウヤシが茂る。
外からもガラスを通して植物が美しく映える。太平洋戦争や伊勢湾台風(1959年)でガラスが割れたこともあるが、修復を重ねて受け継がれてきた。
構造の特徴は、当時主流の鉄骨をリベット(鋲)でとめるのではなく、溶接したことだ。市土木部建築課の若手技術者の一圓俊郎が公共施設では珍しかった溶接技術を採用。鉄鋼が接合する部分を小さくして植物に多くの光が届くように工夫した。
この全溶接建築物としての価値も評価され、2006年に重要文化財に指定された。周囲の自然にとけ込むアーチは、英国・ロンドンにあるキュー王立植物園(キューガーデン)の「パームハウス」でも採用されている。多方面から光を取り込んで熱が逃げにくく蓄熱効果が高くなり、効率的に温室を温められる。
サビなども目立っていたが、2013年から20年まで耐震性も含めた保存修理事業が行われ、開園当初の姿に復元された。
鉄骨は全て取り換えるのではなく、使える部分は使い、傷んだ部分だけを切断し取り換えて補修。この際溶接跡を残したのは、温室の歴史を知ってもらうきっかけになればという願いからだ。
復元の際、市民から提供された温室内のスナップ写真も手掛かりにして写っていた照明器具を作り直したり、発掘された当初のタイルを分析して復元したり・・・・・・。至る所に歴史が刻まれた。
「水晶宮」は市民に見守られながら、次世代に受け継がれていく。
(佐藤直子、写真も)
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*16日まで一部に工事の足場が組まれている。入園は午前9時~午後4時30分。月(祝休の場合は翌平日)休み
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