楚蓮香(それんこう)
芳しい香りまでも絵から匂い立つ 光る上村松園独自の表現
ふわりと飛ぶ1匹のチョウ。気分良く舞うチョウになる夢から目覚めた今は、チョウが自分になった夢なのかもしれない。夢か現実か、自分かチョウかはどちらでもいいーーという区別を超越する境地を説いた荘子の「胡蝶(こちょう)の夢」が、本作の題材だ。
作者の松平不昧(ふまい)(1751~1818)は、松江藩7代藩主で大名茶人。「禅の修行にも励み、禅思想の元となる荘子の哲学にも共感していた」と学芸員の後藤さち子さんはいう。
茶道具の中でも、軸は茶会のテーマを表現する重要な役割を持つ。「軸に仕立てたこの画賛は、大きさからして客人が最初に通される待合などに掛けられ、茶室に入る前に、その日の主題を想像させるものだったのではないでしょうか」
茶道具の収集や分類、制作に注力した不昧。「丸い和紙を月のように見立て、ほとんど空白のままにした本作も、禅的だと言えるでしょう」と後藤さんは話す。