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私の描くグッとムービー

河内遙さん(漫画家)
「ギター弾きの恋」(1999年)

心地いい距離感の人物描写

河内遙さん(漫画家)「ギター弾きの恋」(1999年)

 中学の頃から追いかけ始めたウディ・アレン作品の中でもシンプルな物語です。舞台は1930年代の米国。抜群の腕を持ちながら、女遊びの激しい自堕落な生活を送るジャズギタリスト、エメットのドタバタ劇がテンポ良く進みます。彼は休日に浜辺で口のきけないハッティと出会い、付き合うように。でも衝動的に他の女性と結婚し、純愛をつかみ損ねる切ないラブストーリーです。

 三日月形の舞台装置にエメットが乗って登場するコミカルなシーンなど、登場人物を俯瞰するような距離感が心地いい。キャラクターの感情の描き方が漫画的で分かりやすく、滑稽でいびつな、いい意味での底意地の悪さにぐっとひかれます。

 口が悪く、ゴミだめのネズミを銃で撃つしょうもない趣味があるエメットは、身近にいたら嫌なタイプだけど、遠目で見てるなら魅力の塊。ハッティは、しゃべらないぶん感情がむきだしで伝わってきます。いつも食べ物をバクバク食べているけど、エメットのギターの音色にうっとりしてちょっと手が止まったり、ふくれ面でそっぽを向いたりするキュートさが好き。

 情けなさと美しさが紙一重だなと感じる場面が多くあります。老若男女の聴衆がエメットの腕前に感動する描写には、音楽で人の心を動かせると信じる監督のロマンチックさが表れていてうれしくなる。そんな天才的な才能を与えられたエメットだから、余計にラストシーンはつらい。しょうもなさとがっかりな感じ、美しいと思う気持ち、複数の感情を絶妙なあんばいで感じて、ずっと繰り返し見ちゃう映画です。

(聞き手・上江洲仁美)

  監督=ウディ・アレン
  製作=米
  出演=ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマンほか
かわち・はるか
 「Kiss」(講談社)で「涙雨とセレナーデ」を連載中。「リクエストをよろしく」(祥伝社)の第5巻が来年1月8日に発売予定。
(2019年12月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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