読んでたのしい、当たってうれしい。

私の描くグッとムービー

岡田千晶さん(絵本作家)
「ラ・ラ・ランド」(2016年)

夢追い人の光と影

岡田千晶さん(絵本作家)「ラ・ラ・ランド」(2016年)

 夢を追う人たちを応援する映画です。成功するしないにかかわらず、夢をかなえるためにひたむきになる。そのひたむきさが美しい。夢を追う人たちはたくさんある選択肢の中から選んでそうしているのではなくて、そうするしかできない人たちだと思うのです。

 映画の舞台はロサンゼルス。主人公は女優を目指すミアと、本格的なジャズを演奏する自分の店を持つことを目指すセバスチャン。夢を語り合い恋に落ちる2人。しかし、夢と現実の間で次第にお互いの気持ちがすれ違っていく……というストーリーをミュージカルで表現している映画です。

 映画のなかでミアが歌う「Audition(The Fools Who Dream)」という歌に感動しました。ミアに影響を与えた女優だったおばが、冷たいパリのセーヌ川に飛び込む話を歌った歌ですが、そんなむちゃさが夢を追うことを象徴しているような気がして。飛び込んだあとに1カ月以上風邪をひくのにまたやるわ、とも歌っている彼女の一途さ。主人公のミアというよりミアのおばの気持ちに共感したんです。

 だからこの場面を描きたいなって思ってこの映画を選びました。冷たい川に飛び込んだあとにできる泡のきらめきを頭にイメージして。そのきらめきがおそらく女優として成功しなかったであろう彼女の人生を彩っているような感じを受けたんです。でも、そのきらめきがミアへと受け継がれている。夢はかなわない人のほうが多いのかもしれないですけれど、ひたむきさに対してグッと心を動かされた映画です。

(聞き手・小松麻美)

 

  監督・脚本=デイミアン・チャゼル
  製作=米
  出演=ライアン・ゴズリング、エマ・ストーンほか
おかだ・ちあき
 大阪府生まれ。ボローニャ国際絵本原画展2010入選。近著は「まほうのハッピーハロウィン」(石津ちひろ文、ブロンズ新社)。
(2019年9月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私の描くグッとムービーの新着記事

新着コラム

  • 美博ノート 五十三次 京三條橋 江戸・日本橋から約500キロ、東海道五十三次の終着点は京の玄関口・三条大橋。東山や八坂の塔を背景に、頭に薪をのせて売り歩く大原女、茶筅をさした竹棒をかつぐ茶筅売り、衣を頭にかぶった被衣姿の高貴な女性が行き交う。

  • 私のイチオシコレクション カメイ美術館 当館は仙台市に本社をおく商社カメイの第3代社長を務めた亀井文蔵(1924~2011)が半世紀以上かけて収集したチョウをコレクションの柱の一つとし、約4千種、1万4千匹の標本を展示しています。

  • 建モノがたり 本館古勢起屋 (山形県尾花沢市) 川の両岸にレトロな旅館が立ち並ぶ。そんな銀山温泉のイメージを体現する築110年の「本館古勢起屋」は、老朽化などのため約20年ほぼ放置されていた。

  • ななふく浪曲旅日記 浪曲は治療、なら、浪曲師はお医者さん? 朝日新聞のWEBRONZA論座で「ななふく浪曲旅日記」として、連載をさせていただいておりました。浪曲のお仕事でさまざまなところへ旅をする中で感じたことを綴っておりましたのを、装い改めて、こちらで再連載することになりました。どうぞよろしくお願いいたします。