読んでたのしい、当たってうれしい。

私の描くグッとムービー

田山淳朗さん(ファッションデザイナー)
「汚れなき悪戯」(1955年)

キリストと心通わせ 村に奇跡

田山淳朗さん(ファッションデザイナー)「汚れなき悪戯」(1955年)

 フランスなどヨーロッパの映画が好きで、高校時代は地元熊本のミニシアターによく足を運びましたね。初めて見たのはその頃。再び見る機会に恵まれたのは生活拠点をフランスに移した30代だったかな、そこでヨーロッパの文化に触れて作品への理解がより深まったんです。

 修道僧に育てられたいたずらっ子のマルセリーノ。ある日、僧院の隠し部屋でキリスト像を発見する。友達のいないマルセリーノはキリストとひそかな交流を始め、言葉を交わすように。スペインの小村で起こった奇跡が描かれています。

 注目すべき点は聖書を巧みに用いた演出。僧院を建てる3人の修道僧をキリストの誕生を祝うために現れた東方の三賢人、僧院で暮らす修道僧たちをキリストが選んだ12使徒として見立てています。マルセリーノがキリストに与えたパンとワインは、キリストが受難前夜に12人の使徒と共に祝った最後の晩餐を思わせ、一貫してキリストの歴史を刻み込んでいるんです。さらに、モノクロの世界で厳かな雰囲気を引き立たせる。光と影が強調された神秘的な映像にグッと引き込まれ、見るもの全てに想像力がかき立てられます。キリストの教えが根付くフランスで生活したからこそ感じ取れたことでしょうね。

 イラストに描いたのは物語の要となるマルセリーノとキリストが心通わせる場面。くすねたパンとワインを与えるマルセリーノの純真無垢な姿に心が癒やされます。その後の展開には驚きますが、本当の幸せとはなにかを考え直す機会を与えてくれる作品です。

(聞き手・陣代雅子)

 

  監督=ラディスラオ・バホダ
  制作=スペイン
  出演=パブリート・カルボ、ラファエル・リベリエス、アントニオ・ビコほか
たやま・あつろう
 1982年、「A.T」設立。89年、「ATSURO TAYAMA」を立ち上げ。多数の企業でディレクターを務める。
(2020年12月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私の描くグッとムービーの新着記事

新着コラム

  • 美博ノート 五十三次 京三條橋 江戸・日本橋から約500キロ、東海道五十三次の終着点は京の玄関口・三条大橋。東山や八坂の塔を背景に、頭に薪をのせて売り歩く大原女、茶筅をさした竹棒をかつぐ茶筅売り、衣を頭にかぶった被衣姿の高貴な女性が行き交う。

  • 私のイチオシコレクション カメイ美術館 当館は仙台市に本社をおく商社カメイの第3代社長を務めた亀井文蔵(1924~2011)が半世紀以上かけて収集したチョウをコレクションの柱の一つとし、約4千種、1万4千匹の標本を展示しています。

  • 建モノがたり 本館古勢起屋 (山形県尾花沢市) 川の両岸にレトロな旅館が立ち並ぶ。そんな銀山温泉のイメージを体現する築110年の「本館古勢起屋」は、老朽化などのため約20年ほぼ放置されていた。

  • ななふく浪曲旅日記 浪曲は治療、なら、浪曲師はお医者さん? 朝日新聞のWEBRONZA論座で「ななふく浪曲旅日記」として、連載をさせていただいておりました。浪曲のお仕事でさまざまなところへ旅をする中で感じたことを綴っておりましたのを、装い改めて、こちらで再連載することになりました。どうぞよろしくお願いいたします。