韓国の全州国際映画祭で、注目の監督3人を集めて製作するオムニバス企画「三人三色」。2004年版の1本がこの作品です。
橋梁、公衆トイレ、地下鉄、駐車場、銀行など、ソウルの街中に設置された監視カメラの映像が28分収められています。冒頭に「膨大な監視カメラの映像からMr.Cho(主人公の男)の姿を探すことにご協力いただき感謝します」という字幕が出るので「本物の監視カメラの映像なのかな」と思って見ていると、主人公の男はちゃんと演技をしているけれど、通行人やトイレに入ってくるのは一般の人たちに見える。どこからが真実でどこからが演技なのかが分からなくなる快感があって、それがとてもおもしろいんです。
男の素性が分からないまま展開していき、小さな犯罪から始まり、だんだん暴力性をはらんでいく。でもコメディーっぽいところもあるんですよね。映像や驚きのグラデーションが完璧に表現され、観客を飽きさせないのが本当にすごい。
イラストに描いたのは一番凶悪なシーン。男がATMで老人に襲いかかるんですが、うまくいかず反撃される。ガラス張りのATMだからたくさんの人に見られ、まるで動物園のパンダ状態。その取り巻きがなぜかけんかをし始め、暴力がインフルエンスしていく。これが作品のテーマなんですよね。画面の手前に男と老人、奥に監視役の相棒、周囲に大衆という構図も最高です。
映画はエンタメと割り切り、映像表現としておもしろいことをやり続ける。そこがポン・ジュノのすごさだと思います。
(聞き手・片山知愛)
(2023年7月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)