この映画を見たのは1982年のとても寒い日。アニメ好きの同級生に連れられて、お茶の水にあった日仏会館での完成披露上映会に行ったんです。その時は20歳くらいでまだ映画を観る側の人でした。片渕須直さんが受付のお手伝いをされていたと最近知り、驚きました。
その上映会で特に印象に残っているのはお客さんの熱気と、タヌキの子がゴーシュの家を訪れる場面。「可愛い……」という押しころした声とため息が会場中を包みこみました。40年前に観たこの小さなアニメ映画が今でもずっと記憶に残っている不思議さをつくづく感じますね。高畑作品の主人公の多くが「これは君たちのことなんだよ」と静かに語りかけているからじゃないかと、監督が亡くなってから思うようになりました。
この映画をユーロスペースですぐにでも上映したい気持ちと、そんな気軽に上映していい映画なのかと問いかける気持ちがあります。映画は上映する季節や時間を選ぶことでお客さんが違ってくることがあります。子どもも大人も等しく楽しめる映画だからこそ、上映するとなるとまず誰に観てもらいたいかを考えてしまいますね。この映画は上映する側からは実は怖い映画なのです。
あの日の上映会の思い出をお話しすることで、その方がこの映画に興味をもってくれて観てくれればとてもうれしいです。映画のリレー、と言ってしまうと大げさでしょうか。あの日仏会館のスタッフはどんな気持ちでこの映画を上映していたんでしょうね。幸せな体験へのお礼を申し上げたいです。
(聞き手・笹本なつる)
監督・脚本=高畑勲
原作=宮沢賢治
キャラクターデザイン=才田俊次
音楽=間宮芳生
声の出演=佐々木秀樹ほか
ほうじょう・まさと 大学卒業後、映写技師として入社、2年後には支配人に就任。12月15日からアキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」が公開になる。
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(2023年12月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)