読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

酒の文化資料 「食と農」の博物館

宴席を楽しむ 粋な仕掛け

酒の文化資料 「食と農」の博物館
右から「鶯徳利」口径1・3センチ、器高14・2センチ、「鶯杯」口径5・2センチ、器高3・0センチ
酒の文化資料 「食と農」の博物館 酒の文化資料 「食と農」の博物館

 東京農大に付属する当館のコレクションは、大学の研究分野に関わる資料です。鶏の剥製(はくせい)やクリオネの実物、農具など多岐にわたりますが、収集の柱の一つは、醸造科学科創設者の住江金之(すみのえきんし、1889~1972)が集めた酒の文化資料。日本各地の酒器など約200点を所蔵しています。

 日本の酒造りの起源は古く、神事と深く結びついてきましたが、時代が下ると庶民も広く楽しむものになりました。特徴は、「温めても冷やしても良し」。器にも熱伝導性や耐熱性の高い材質を使うほか、屋外で熱燗(あつかん)を作る専用器もあります。

 一方で、酒席を楽しむための工夫も様々です。「鶯徳利(うぐいすとっくり)」は酒を注ぐ時、「キュキュッ」と音が鳴ります。内部を二つに仕切った構造で、器を傾けることで内部の気圧が変化し、上部の穴から音が出る仕組み。「鶯杯」も、縁にある穴に口をつけて酒を飲む時に音が出ます。酒器で宴を盛り上げる、粋な心の表れでしょう。

 酒との関わりを示す錦絵も所蔵し、資料保護のためレプリカを展示しています。そこに描かれた酒癖や大酒大会の様子には、今も昔も変わらない、宴を楽しむ姿があります。「江戸時代の居酒屋の風景」は明治維新期の風刺絵。酒を飲む二人の着物柄に注目すると、左の人物は籠目(かごめ)模様と縞(しま)模様の上下で「鹿児島」、右の人物は萩と蝶の模様で「長州」を連想させます。犬猿の仲だった薩長の接近を、酒を酌み交わす描写で表現しています。

(聞き手・木谷 恵吏)


 《東京農業大学「食と農」の博物館》 東京都世田谷区上用賀2の4の28(問い合わせは03・5477・4033)。午前10時~午後5時。原則月、毎月最終火休み。無料。2点は常設展示。

学芸員 西嶋優

 にしじま・まさる 東京農大農学部卒。2011年から同館勤務。4月25日~8月5日の企画展「農芸化学の始まりから未来まで」を担当。

(2019年4月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 台東区立一葉記念館 枠外までぎっしりと。肉筆が伝える吉原周辺の子どもたちの心模様。

  • 京都国立博物館 中国・唐と日本の技術を掛け合わせた陶器「三彩蔵骨器」。世界に日本美術を体系的にアピールするため、「彫刻」として紹介された「埴輪(はにわ)」。世界との交流の中でどのようにはぐくまれてきたのでしょうか?

  • 昭和のくらし博物館  今年は「昭和100年」ですが、昭和のくらし博物館は、1951(昭和26)年に建った住宅です。私たち小泉家の住まいで、往時の家財道具ごと保存しています。主に昭和30年代から40年代半ばのくらしを感じられるようにしています。この時代は、日本人が最も幸福だったと思います。日本が戦争をしない国になり、戦後の混乱期から何とか立ち直り、明るい未来が見えてきた時代でした。

  • 国立国際美術館 既製品の中にある織物の歴史や先人の営みを参照し、吟味し、手を加えることで、誰も見たことのないような作品が生まれています。

新着コラム