読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

素朴派 ハーモ美術館

心のままに描いた身近な風景

アンリ・ルソー「果樹園」 油彩、1886年
アンリ・ルソー「果樹園」 油彩、1886年
アンリ・ルソー「果樹園」 油彩、1886年 グランマ・モーゼス「農作業」 油彩、1957年

 素朴派とは、美術教育を受けていない画家たちの総称です。フランスの画家アンリ・ルソー(1844~1910)を筆頭に、独学ゆえにアカデミックな机上の空論に左右されず、身近な風景や自然を心のままに描いたあたたかみのある作風が特徴です。

 当館は「芸術と素朴」をコンセプトに、90年に長野県の諏訪湖のほとりに開館しました。晴れた日は山間に富士山も望める立地と、素朴派作品のやすらぐ風景に通じるものを感じ、ルソーら同派5作家の61点を所蔵しています。

 ルソーはパリ市で税官吏を務めながら、40代から日曜画家として絵を描き始めました。独創的な作風は晩年まで評価されず、作品の多くが失われましたが、当館には貴重な9点があります。その一つ、「果樹園」は初期の作品。けむるような独特な筆致が深い秋を思わせます。白と黒のコントラストも鮮やかですね。ルソーの才能をいち早く見抜いたのはピカソでした。本作の裏側には、「敬意を表す」という言葉とともにピカソら前衛画家たちのサインが記されています。

 アメリカの素朴派といえば、国民的画家グランマ・モーゼス(1860~1961)。当館では刺繍作品を含む7点を所蔵しています。70代から絵筆を握った「モーゼスおばあさん」の絵は、自然への賛美と愛情に満ちています。「農作業」で初夏の故郷を描いたときには97歳。晩年の作風は、より明るく輝きをおびています。

(聞き手・星亜里紗)


《ハーモ美術館》 長野県下諏訪町10616の540(問い合わせは0266・28・3636)。午前9時~午後6時(10月~3月は5時まで)。2作品は常設展示。1000円。

館長 関たか子

館長 関たか子

 せき・たかこ 1943年生まれ。20代から画商の仕事を始め、国内外のオークションに精力的に参加。90年にハーモ美術館を開館。

(2019年4月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ

私のイチオシコレクションの新着記事

  • シルク博物館 幕末以来長く横浜港の主要輸出品だった生糸(絹)をテーマに約7千点を所蔵

  • 平山郁夫美術館 平山郁夫(1930~2009)の「アンコールワットの月」は、好んで用いた群青ほぼ一色でカンボジアの遺跡を描いた作品です。

  • 北海道立北方民族博物館 北海道網走市にある当館は、アイヌ民族を含め北半球の寒帯、亜寒帯気候の地域に暮らす民族の衣食住や生業(なり・わい)に関する資料を約900点展示しています。

  • 立山博物館 江戸時代に立山登拝の拠点村落の一つだった富山県立山町芦峅寺(あしくらじ)集落にある当館は、展示館を中心に施設が点在する広域分散型博物館です。立山の人と自然にかかわる資料約2万点を収蔵し、常設展などで展示しています。

新着コラム