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養蚕業のはかり 東洋計量史資料館

雌雄を判別 強く大きな繭に

養蚕業のはかり 東洋計量史資料館
養蚕業のはかり 東洋計量史資料館 養蚕業のはかり 東洋計量史資料館

 明治以降、日本の養蚕業は外貨獲得の主要な手段の一つでした。当館がある長野県では特に盛んで、1921年の横浜からの生糸出荷高はトップの片倉製糸紡績を含め上位25社のうち18社を県内企業が占めています。

 「畠山式雌雄選繭器(しゆうせんけんき)」はメスのほうがオスよりわずかに重いという繭の性質を利用し、蚕の性別を重さでえり分けるはかりで、平野村(現中野市)の畠山栄助氏が開発したものです。当時「蚕種界の福音」とうたわれたもので、三連のてんびんが美しいです。

 当館はこうした雌雄判別器を8種所蔵しており、うち4種は県内で開発されました。それぞれ構造が異なり個性的ですが、ほとんどが1916~18年製です。

 なぜ雌雄の判別が重要だったのでしょうか。遺伝学では、互いに性質が異なる品種を交雑させた「一代雑種」は多くの場合、親より優れた性質を持つことが知られています。1906年、外山亀太郎博士が養蚕への応用を提唱。日本、中国、欧州の品種間で交雑させた蚕は病気に強く発育がそろい、大きな繭から多くの糸がとれることがわかりました。

 片倉製糸の松本工場が卵を農家に無料配布するなどして、一代雑種は一気に普及しました。人工交雑のために蚕が成虫になる前に、雌雄を効率よく、正確に知る必要があったのですね。

 デニール秤(ばかり)は糸の太さを測るものです。9千メートルで1グラムの糸が1デニール。検尺器で225メートル巻き取った糸の重さを量り、重さから太さを割り出します。蚕糸は2・0~3・5デニールほどで、細いほど良質とされ、高値が付きました。

 精密さは現代のデジタル技術の計測器が勝りますが、「どういう仕組みではかっているか」を目で見て分かるのが、アナログの良さだと感じます。

(聞き手・高木彩情)


 《東洋計量史資料館》 長野県松本市埋橋1の9の18(問い合わせは0263・48・1121)。午前10時~午後4時(入館は30分前まで)。要予約。500円。(月)休み。12~2月は冬季休館。

つちだ・やすひで

館長 土田泰秀

 つちだ・やすひで 東洋計器社長。江戸時代の携帯用はかりから収集を開始。旧本社工場跡を改装し、2014年に開館した。

(2021年3月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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