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INAXライブミュージアム
「世界のタイル博物館」

暖炉を飾った絵柄 読み解くと…

INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」
「緑釉人物文レリーフタイル」 Minton’s China Works 19世紀末 幅16.5×高さ41.6センチ
INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」 INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」

 当館はタイル研究家の故山本正之さんのコレクションを中心に、古代から近代までの約7千点を収蔵し、地域別に展示しています。

 壁や床を装飾するタイルは4670年ほど前、古代エジプトの階段ピラミッドの地下の壁に張られたものが世界最古と言われています。その後イスラム教圏でモスクの装飾などに使われた頃は高価で貴重なものでしたが、スペイン、イタリア、オランダ、英国とヨーロッパ各地に広がるにつれ、庶民の生活空間を彩るようになりました。

 英ミントン社製の「緑釉(りょくゆう)人物文レリーフタイル」は暖炉周りなどの装飾に使われました。金型に原料を押し固めて成形し、単色の釉薬をかけて焼成したもので、凹部は釉薬がたまって濃く、凸部は薄くなり、陰影と立体感を生んでいます。

 ヒマワリの花を背景に、物憂げにたたずむ女性。手に持つ鳥かごの中には、ギリシャ神話で愛の象徴として描かれる、翼のある子どもがいると思われます。これと対になるタイルも製造されていて、そちらの絵柄は赤ちゃんを入れたバスケットを手に提げた幸せそうな女性です。セットで見ると、このタイルは愛が成就する前の悩む姿を表現したとも解釈できます。

 「鉛釉ひまわり文レリーフタイル」は、建築家アントニオ・ガウディのデザインです。彼が設計したスペイン北部の「エル・カプリチョ(奇想館)」の、れんが造りの外壁を飾るために作られました。施主が音楽と植物を愛する人だったので、花をモチーフにしたとも言われています。

(聞き手・吉﨑未希)


 《INAXライブミュージアム「世界のタイル博物館」》 愛知県常滑市奥栄町1の130(問い合わせは0569・34・8282)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。700円。年末年始、(祝)を除く(水)休み。2点は常設展示。

たちばな・よしの

学芸員 立花嘉乃

 たちばな・よしの 多治見と瀬戸の窯業(ようぎょう)地で焼き物を勉強後、2005年から勤務。古便器や装飾タイルなどコレクションの常設展示に関わるほか、企画展を担当。

(2021年6月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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