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世界のカバン博物館

米国への憧れ刺激 大ヒット

世界のカバン博物館
マジソンバッグ 高さ27×幅44×マチ17センチ
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 世界のカバン約550点を収蔵する当館は、カバン製造販売のエース創業者・新川柳作(1915~2008)が、「カバンを通じて世の中に恩返しできないか」と考えたのが設立のきっかけです。新川が世界中で収集した時代や素材もさまざまなカバンの歴史、各国の文化、風習をごらんいただけます。

 今回ご紹介するのはエースが業界に先駆けて開発し、日本のカバン史上でもエポックメイキングといえる品です。

 1968年発売の「マジソンバッグ」は、懐かしく思い出される方も多いのではないでしょうか。紺色のポリ塩化ビニール製ボストンバッグ側面に「MADISON SQUARE GARDEN」の文字。70年代にかけて若者を中心に爆発的な人気となり、模倣品も含めて約2千万個売れました。

 米ニューヨークにあるマジソン・スクエア・ガーデンは150年近い歴史があるスポーツアリーナです。プロレスやボクシングの試合も行われ、ジャイアント馬場らの活躍に日本中が熱狂しました。

 そんな頃ある百貨店から「オリジナルのスポーツ用バッグを作りたい」と持ちかけられました。米国の豊かさへのあこがれを刺激し、日本人にもなじみがある格闘技の殿堂の名前をあしらってはどうかと生まれたのがマジソンバッグでした。

 当初、東京での売れ行きは伸び悩みました。在庫処分を兼ねて神戸で販売したところ、女子高校生を中心に大ヒット。港町・神戸は、新しさに敏感だったのでしょう。ここから全国的に広まり、中高生のサブバッグの定番のようにもなりました。

 これに先立つカバンの「一大革命」が業界初のナイロン製バッグです。新川は50年代初め、国産が始まった合成繊維ナイロンの軽さや丈夫さ、発色のよさに注目し、ナイロン製バッグの開発に取り組みました。裏地のゴムがはがれるトラブルに1年半も頭を悩ませるなどしながら完成にこぎつけました。

(聞き手・島貫 柚子)


 《世界のカバン博物館》 東京都台東区駒形1の8の10(問い合わせは03・3847・5680)。午前10時~午後4時半。無料。(日)、(土)を除く(祝)、年末年始休み(不定休あり)。

なんば・としふみ

館長・難波敏史

 なんば・としふみ 1988年エース入社。2021年から現職。マーケティング本部PR・広報担当部長兼務。

世界のカバン博物館HP
https://www.ace.jp/museum/

(2023年2月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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