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馬の博物館

巻狩図屛風 通信使への返礼か

狩野探信守道「巻狩図屏風」 1811年(推定) 168・9×431・2センチ
狩野探信守道「巻狩図屏風」 1811年(推定) 168・9×431・2センチ
狩野探信守道「巻狩図屏風」 1811年(推定) 168・9×431・2センチ 「螺鈿鞍」 室町時代 前輪(まえわ)高28・5センチ、後輪(しずわ)高27・5センチ、居木(いぎ)長37・5センチ

 当館は日本初の本格的洋式競馬場である根岸(横浜)競馬場跡地にあります。馬と人の交流から生まれた文化的資料を幅広く収集・展示しており、1万8千点ほど所蔵しています。併設のポニーセンターには日本在来馬など様々な種類の馬9頭を飼養しています。
 「巻狩図屏風(まき・がり・ず・びょう・ぶ)」は幕府の奥絵師の一人、狩野探信守道(1785~1836)の作品。源頼朝が富士山の裾野に多くの御家人を集めて行った巻き狩りが描かれています。現在残っているのは六曲一双の向かって左隻とみられ、右隻の所在はわかっていません。
 騎馬のまま崖縁に登ってしまった武士、大イノシシを退治する武士、巻き狩り中に起きた曽我兄弟のあだ討ち物語を踏襲した場面のほか、人と馬がともにあるのどかな姿も描かれます。
 興味深いのはこの作品の来歴です。通常のびょうぶに比べて非常に大きいこと、署名と印章が公式な形式であることから、国家規模の公的事業で制作されたと考えられてきました。
 さらに近年、江戸時代に朝鮮通信使への返礼として贈られた「贈朝(ぞう・ちょう)屏風」の下絵を写した資料が鹿児島県で見つかり、それとの類似性が確認されました。つまり本作は、1811年に贈られたびょうぶまたはその副本である可能性が高いと考えられます。
 贈朝屏風は江戸時代を通じて190双贈られたとされますが、現在確認できるのは5点。当時最高の絵師が腕をふるった美術的価値と、日本外交史を物語る歴史的価値のある作品といえるでしょう。
 馬に乗るのに欠かせないのがくら。「螺鈿鞍(ら・でん・くら)」は江戸時代まで主流だった和式馬術で使われる、木製のくらです。和鞍には甲冑(かっ・ちゅう)を着けた際に使う軍陣鞍、平服で用いる水干鞍などがあり、本作はその形から軍陣鞍に分類されますが、実用的な形状にも関わらず螺鈿細工で繊細な装飾がされている点が面白いと思います。

(聞き手・深山亜耶)


 《馬の博物館》 横浜市中区根岸台1の3(問い合わせは045・662・7581)。午前10時~午後4時半(入館は30分前まで)。2点は12月9日~1月28日に展示予定。原則[月]、12月5~8日、年末年始休み。

 ◆馬の博物館
 https://www.bajibunka.jrao.ne.jp/uma/index.php

みずのまさみ

学芸員 柏﨑諒 さん

 かしわざき・りょう 1986年生まれ。早稲田大学文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。2019年から現職。専門は日本絵画史。

(2023年11月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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