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浜松市秋野不矩美術館

姉妹の姿 伝統との対峙重ねる

「姉妹」 1946年 160×167センチ 紙本着色、二曲一隻
「姉妹」 1946年 160×167センチ 紙本着色、二曲一隻
「姉妹」 1946年 160×167センチ 紙本着色、二曲一隻 「村落(カジュラホ)」 1994年 114×184センチ 紙本着色

 現在の静岡県浜松市に生まれ、新しい時代の日本画表現を追い求めた秋野不矩(1908~2001)。その故郷にある当館は本画や素描など約300点を所蔵しています。

 二曲一隻のびょうぶ「姉妹」は、日本画の革新を目指す「創造美術」(現・創画会)の結成に参加する2年前に描いた作品です。教職を辞し19歳で日本画家を志した秋野は石井林響らに師事。官展で入選するなど地歩を固めつつ、伝統と革新のはざまで葛藤していました。一見すると伝統的な日本画ですが、革新に挑もうという並々ならぬ覚悟が表れています。

 向かって左側の姉と見られる女性は、正面向きの正座姿。右側の妹と見られる女性は横を向き、ひざを崩した姿です。着物や髪形、たたずまいを描き分けることで姉に「伝統」、妹に「革新」の意味を重ねたのでしょう。

 びょうぶとして立てると、妹のひざ元の柄の葉先が姉の方に向き、伝統と革新が対峙する構図がより鮮明に表れます。妹の着物の一部は意図的に塗られておらず、「創造には終わりがない」というメッセージを読み取ることもできます。

 西洋画の技法を採り入れた人物画で新境地を開いた秋野がインドに魅せられたのは54歳の時。大学の客員教授として滞在したのを機に、十数回にわたり訪問しました。主にテーマとしたのは廃虚や路地。厳しい環境下で懸命に生きる人々や動物に、優しいまなざしを向けました。

 「村落(カジュラホ)」のモチーフも路地裏。土壁の黄色は、秋野がインド作品の多くに用いた独特な色です。画面奥の動物が顔を向ける先は明るく、その先の景色を想像させます。

 建築家・藤森照信さん設計の当館は、靴を脱いで展示室に入ります。この2作品を展示している第2展示室には大理石が敷かれ、座って鑑賞することも可能。作品とじっくり「対話」できる空間です。

(聞き手・木谷恵吏)


 《浜松市秋野不矩美術館》 静岡県浜松市天竜区二俣町二俣130(問い合わせは053・922・0315)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。2点は12月24日まで所蔵品展で展示中。310円。原則(月)、年末年始休み。

すずき・えいじ

館長 鈴木英司さん

 すずき・えいじ 静岡県出身。教育現場に長年従事。2022年から現職。

(2023年11月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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