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香美市立やなせたかし記念館 詩とメルヘン絵本館

雑誌編集長 素顔のぞく絵日記

気まぐれ絵日記「創刊十五周年記念日」(『詩とメルヘン』1988年7月号掲載)
 漫画家やなせたかし(1919~2013)のふるさと・高知県香美市の当記念館には、「アンパンマンミュージアム」や「詩とメルヘン絵本館」があります。絵本館は、アンパンマン以外のやなせ作品や関係作家の作品を紹介しており、6月19日から8月5日まで「詩とメルヘンの世界展 partⅠ」を開催します。
 
 やなせが雑誌「詩とメルヘン」を創刊したのは、アンパンマンが絵本になった1973年のことで、はじめはガリ版刷りの同人誌などから詩を選んでいました。以降、編集長として表紙絵や挿絵、豆カットなど様々な仕事を手がけ、自身を何でもこなす「用務員のおじさん」と呼んでいたのだとか。
 
 劇画でハードボイルドな作風がもてはやされた時代でしたが、「詩とメルヘン」は有名・無名に関わらず採用された投稿詩にプロのイラストレーターが絵を付ける絵本形式。新しい抒情の世界を確立したことが人気を呼び、2003年の休刊まで30年間続き、多くの詩人やイラストレーターを輩出しました。
 
 同誌「気まぐれ絵日記」コーナーは、やなせの実生活を垣間見ることができます。仲間との交流、取材旅行の様子などを毎号2、3の絵日記でつづっています。1988年7月発行の創刊15周年記念号では、ヒット作「手のひらを太陽に」「やさしいライオン」「アンパンマン」など、代表作のキャラクターが一堂に描かれています。デザイナーや作詞家、放送作家など様々な職を経てヒットをつかんだやなせが、作品を子どものように大切にしていたことが感じられます。
 
 78年1月号の付録の原画は、やなせの詩「おとうとものがたり」の一つ。若くして戦死した弟・千尋への思いを絶唱しています。高知県南国市の道信山で一緒に夕日を見た思い出。弟へ伝えきれなかった思いや生きるのがつらかった少年時代をモノクロの挿絵とともにつづっています。複雑な家庭環境や弟の死を通して感じた愛や正義への思いは、アンパンマンにつながる作品の根底だと思うのです。
 

(聞き手・佐藤直子)


  香美市立やなせたかし記念館 詩とメルヘン絵本館高知県香美市香北町美良布1224の2(0887・59・2300)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。450円。原則火休み。

 

香美市立やなせたかし記念館 詩とメルヘン絵本館

 香美市立やなせたかし記念館 (anpanman-museum.net)

 

 

さわむら・あきのぶ

学芸員 澤村 明信

 さわむら・あきのぶ 

京都府立大学文学部史学科卒業。2021年から現職。

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