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石巻市博物館

宿した記憶 どう伝えるか

舟越桂「ラムセスにまつわる記憶」 1986年 クスノキ・大理石に彩色 高さ80.5×幅57×奥行き22センチ ©Katsura Funakoshi

 2011年3月11日、当館の前身・石巻文化センターは津波で床上3.3メートルまで浸水する被害に見舞われました。泥や瓦礫が収蔵庫へ流れ込み、多くの美術作品や史料が被災しました。
 収蔵品を救出した活動が「文化財レスキュー」です。全国の大学や博物館、美術館の協力のもと、収蔵品やその破片を捜し出し、洗浄します。その後、修復して安定的に保存できる状態になって当館に戻された文化財は、美術作品だけで246件にのぼりました。
 舟越桂(1951~2024)の彫刻「ラムセスにまつわる記憶」は、その1点です。クスノキを使った半身像に彩色し、大理石の目をはめ込んだ作品ですが、表面と胴体内部に近くの製紙工場から流れてきたパルプがからみついて倒れていました。
 宮城県美術館に運んで汚れを落とし、東北芸術工科大学で応急処置を施した後、東北歴史博物館で燻蒸しました。大理石の瞳が投げかける眼差しや、薄く彩色された肌の色など、かつての静謐な佇まいがよみがえりました。
 震災を通してこの作品に接するとき、タイトルの持つ意味が変わって見えてきます。あの日の「記憶」を宿したことが、この作品が背負った歴史であり、物語なのだと考えています。
 石巻出身の彫刻家・高橋英吉(1911~42)の木彫「少女と牛」も被災した作品の一つです。牛の背に乗る少女の左足先が欠損しました。英吉は太平洋戦争で31歳の若さで亡くなりましたが、各地に残された英吉の作品が市に寄贈されたことをきっかけに文化センターが設立された経緯もあり、重要な作家として展示室を設けています。
 ほかにも被災の痕跡をとどめる作品は少なくありません。被災の歴史を伝える資料として展示するか、修復して本来の姿に戻すか、関係者には迷いやためらいもあります。被災した作品をどう後世に伝えていくか、模索が始まったところです。

(聞き手・三品智子)


 《石巻市博物館》 宮城県石巻市開成1の8(☎0225・98・4831)。[前]9時~[後]5時(入館は30分前まで)。原則[月]([祝]の場合は翌日)、年末年始休み。常設展示室は300円。「ラムセスにまつわる記憶」は所蔵資料展(4月5日~5月11日)で展示予定。

  

おの・ゆうきさん

学芸員 小野雄希さん

  おの・ゆうき 福島県出身。2023年から現職。企画展「移動美術館 佐藤忠良展」などを担当。石巻のおすすめスポットは金華山。

(2025年3月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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