富士山の山開きシーズンになりました。北麓(ほくろく)にある当館は、世界文化遺産の要素として評価された富士山信仰がメインテーマ。2022年に重要有形民俗文化財に指定された「吉田口の富士山信仰用具」4039点は全て所蔵しています。
その一つ、「木花開耶姫(このはなさくやひめ)像」は、展示の主役となるご神像。江戸時代に富士山の神様として信仰された、桜の花が咲き誇るような美しい女神です。左手にはどんな願いもかなえるという「宝珠」が。像を囲うガラスを宝珠と同じ形にし、女神の素晴らしさを引き立たせています。山頂に湧き出る雲は実に生き生きとしていて、当時の人の富士山を尊ぶ気持ちを感じます。
この像は、富士山信仰を広める宗教者「御師(おし)」の家のうち、中雁丸(なかがんまる)家に祭られていたものです。
古来、人々は噴火し荒ぶる富士山をおそれ敬い、信仰の対象としました。噴火を起こすのも鎮めるのも富士山にすむ神仏。時代で「浅間大神」や「かぐや姫」などと変わりましたが、神様は代々女性だとされています。
一方、富士山信仰で大切な動物といえばサル。60年に1度の庚申(かのえさる)の年に霧が晴れて富士山が人々の前に現れたとの伝説から、神仏の使いとされました。「枡形牛玉(ますがたごおう)」は庚申の年に御師が登山者や檀家に配った絵札で、「三猿」が描かれます。
サルは、道に迷った登山者を助け、修行者に食べ物を与えるとされていました。実際は枯沢ばかりで水場のない富士山にサルはいませんでした。だからこそ神聖視されたのでしょう。
絵札には升に入った穀物が描かれ、富士山が穀物を積み上げた形に似ていることを表現しています。山の高さに穀物を数える単位「合」が使われる由来も記されています。
富士山の噴火を起こす大きな力は、健康や商売繁盛などの幸せをもたらすと信じられていました。美しい日本の最高峰であり、火を噴く生きた山でもある。どちらが欠けても、ここまで人をひきつける山にはならなかったのではないでしょうか。
(聞き手・中村さやか)
《ふじさんミュージアム》 山梨県富士吉田市上吉田東7の27の1(☎0555・24・2411)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。400円。火(祝を除く)休み。7、8月は無休。
学芸員 篠原武さん しのはら・たける 1979年生まれ。明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業。富士山信仰の研究や富士山の調査・保護業務などを行う。 |