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私のイチオシコレクション

浜田市立石正美術館

欧州の旅で開眼 新たな日本画

「シエナ」 56.3×74.8センチ 1990年
 日本画家・石本正(1920~2015)は、肌の透明感や皮膚の奥の血液の流れまで感じさせるリアルな女性像で知られます。ボッティチェリが描いた肌に憧れ、その美を追求しました。また、日本の仏像の伏し目がちな視線が美しさの秘密だと気づき、女性の表情の表現に採り入れています。
  石本は「ヨーロッパ美術の旅」と名付け、自身が見たいものを見る観光ツアーを組みました。開催中の企画展では旅で描いたスケッチを展示しています。「シエナ」は、イタリアの中世のたたずまいをそのまま残した町を描いています。ケント紙に木炭、鉛筆、油性クレヨンの5色ほどしか使っていません。
 
 石本は欧州の町を見て郷愁を覚えたと言っています。出身地の島根県石見地方は、石州瓦の赤茶色の屋根が広がっています。同じ色の風景に故郷を重ねながら描いたのではないでしょうか。京都市立芸術大の教え子らを連れた石本のツアーは、49歳から69歳まで9回に及びました。バスに乗り合わせ、長い時は81日間、中世のキリスト教美術を見て回ったそうです。
 
 石本は中世のフレスコ画から、質感や描き方、画家の精神性まで、日本画との類似点を見いだしたといいます。自ら学び直し、舞妓という古典的なモチーフを素材にしながら新しい日本画を目指しました。「のれん」は、何度もスケッチしながら美しすぎて本画にできなかった舞妓がモデル。欧州で中世の木彫の女性像を見て開眼し、それ以来描けるようになったそうです。
 
 生誕地の島根県浜田市三隅町にある当館は、2001年に開館しました。収蔵の石本作品は約1万4千点。約600点が日本画の本画で、人物デッサンやスケッチなどもあります。年4回テーマを変え、石本がどんな絵を描き、どのように生きた画家なのかを伝えています。
 
 (聞き手・鈴木芳美)

 《浜田市立石正美術館》 島根県浜田市三隅町古市場589(☎0855・32・4388)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。原則月曜日休み。「シエナ」は「ヨーロッパ美術の旅―中世を夢みて―風景スケッチを中心に」で展示中。3月8日まで。500円。 

よこやま・ゆみこ
主任学芸員 横山由美子さん
 
 よこやま・ゆみこ  広島県出身、広島市立大学大学院修了。日本画を学んだ後、2011年に石正美術館学芸員になり現在に至る。
(2026年1月20日、朝日新聞夕刊欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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