開かれた冊子のページの上に、たんぽぽの種子が、ほぼ均等にのり付けされています。山田愛子の「眠らない本シリーズ『発芽を待ちつづける種子・たんぽぽ』」は、「本」を作家がそれぞれに解釈して素材とし、芸術表現をする「ブック・アート」の一つです。
本の見開きに植物の種子が置かれたこのシリーズは、7点で構成されています。種は作家が集めたもので、自然特有の均一ではない揺らぎに、美を見いだしています。種というより「生命」を植えている感じがしますよね。綿毛を横から眺めると、壮大な風景が広がります。
私にはこの作品が詩のように思えます。言葉の詩とは違い、見る人によって全く異なる意味が生まれ、奥底に眠る想像力をふわっと引き出してくれます。私が初めて見たときは、自分が小さくなって、この種の隣にいたら、どんな匂いがするのかな、暖かいのかな、と考えていました。
同じく植物の種と本を結びつけているのが、河口龍夫の作品「関係―本(種子を宿した北斎)スイカ」です。既存の本の表紙にスイカの種が置かれていて、まるごと鉛で封じ込められています。制作のきっかけは、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故でした。放射線から守るべきものは何かを考え、作家が行き着いたのは「生命と人間の英知」だったのではないでしょうか。種は生命、本は英知の象徴として、放射線を通しにくい鉛で包むことで、未来まで守り抜く思いが込められています。
当館は「本」にまつわるアートを収集しています。この2作品は、ともに40年生まれの作家のもので、生命の大切さや次世代への温かなまなざしにあふれています。遠い未来まで残していきたい作品です。
(聞き手・斉藤梨佳)
《うらわ美術館》 さいたま市浦和区仲町2の5の1の3階(☎048・827・3215)。【前】10時~【後】5時(【金】【土】は8時まで、入室は30分前まで)。原則【月】(【祝】の場合は翌平日)、27日~1月4日休み。2作品を展示する企画展は1月18日まで。千円。
うらわ美術館 https://www.city.saitama.lg.jp/urawa-art-museum/index.html
学芸員 滝口明子さん たきぐち・あきこ 1974年生まれ、青森県出身。ブック・アートの収集、調査、展覧会企画に携わる。2015年から現職。 |