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私のイチオシコレクション

川島織物文化館

西陣の伝統技 知れば見える物語

丸帯地試織「フランス唐花」(右、部分) 明治時代 川島織物製

 西陣織の地を発祥とする「川島織物セルコン」が運営する当館は、136年の歴史を持つ日本最古の企業博物館です。製品作りの資料として集めた国内外の染織品や古書など約16万点を所蔵し、様々な企画展で織物の魅力を紹介しています。

 現在開催中の展示テーマは「黒」。現代のファッション界でも人気の色ですが、日本では、黒留め袖など礼装に黒が用いられ、より深い黒ほど美しいとされてきました。
 黒地が効果的に使われた「フランス唐花」は、明治時代の帯の試織(試し織りしたもの)です。中世フランスの宮廷貴族の衣装がモチーフで、当時はかなりモダンな柄だったはず。織物に欠かせない正絵(デザイン画)がセットで残っている点が非常に貴重で、制作過程の工夫を知ることができます。
 両者を比較してみてください。らせん状のリボンが、正絵よりも立体的になっています。また、金糸を入れることで全体が落ち着いた色味になっており、黒を柔らかい印象にする効果を狙ったことが分かります。
 帯の試織「ラデンの梅」は、螺鈿(らでん)の色合いが、貝殻を使わずに織物の技で表現されています。銀地は、西陣織の特徴的な技法「引箔(ひきばく)」によるもので、和紙に貼った銀箔(ぎんぱく)を糸状に裁断して1本ずつ織り込んでいます。螺鈿調に見えるように更に一工夫し、紫や緑の彩色を施しています。創業180年を超える当社は正倉院文様などの伝統的な柄を豪華にあしらった格式ある帯を得意としてきました。「ラデンの梅」は、豪華絢爛(けんらん)な物作りの技術に裏打ちされながらも、シンプルに表現されているところにひかれます。
 織物は、見る角度や光の加減、さらには鑑賞者の気持ちによっても表情が変わるのが魅力です。衣食住を満たすためだけでなく、文化、集団や個人のアイデンティティーを表現するためにも欠かせない要素です。展示を通して制作過程や職人技などの背景を知ると、一枚の織物に物語が見えるはずです。

 (聞き手・中村さやか)


 《川島織物文化館》 京都市左京区静市市原町265(☎075・741・4120)。[前]10時~[後]4時半。無料。[土][日][祝][休]、年末年始など休み。オンラインで要予約。3点は来年10月30日[金]まで「∞黒(エンドレスブラック)」展で展示。

 

かみざいく・ゆりさん

  学芸員 神細工友梨さん

 かみざいく・ゆり 大学で東洋史を学び、中国の古文書などを研究するなかで織物の奥深さを知る。2023年から現職。企画展や調査を担当。

川島織物文化館
https://www.kawashimaselkon.co.jp/bunkakan/

(2025年12月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。入館料、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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