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SOMPO美術館

心を自由に 東郷青児と続く縁

「黒い手袋」 1933年 119.2×68.2センチ

 SOMPO美術館の代名詞といえば「ゴッホの『ひまわり』」。ですが、当館の歴史は洋画家・東郷青児(1897~1978)から始まったのはご存じですか。


 きっかけとなったのが、33年の二科展出品作「黒い手袋」です。

 損保ジャパンの前身「東京火災保険」が34年に作った保険案内冊子の表紙を飾りました。
 29年の二科展でシュルレアリスム的作品を日本でいち早く発表した東郷に、冊子の刷新を請け負っていた印刷会社が着目。前衛で新感覚な絵を期待して依頼したところ、東郷から提供されたのは、流行のメイクや服で装ったモダンな女性を描いた作品だったのです。


 当時、社の方針で火災保険の印刷物は紺色をメインカラーに用いていました。東郷は、紺のベストを描いたこの絵を選んだと思われます。


 平面的に描かれた左腕の黒い手袋とは対照的に、あらわになった右腕は立体的です。なめらかな肌や物憂げな表情からは、「青児美人」と呼ばれる戦後の作風を連想させます。


 印刷会社の思惑とは違う絵でしたが、東京火災保険の社長が気に入り、採用となりました。以降、同社では顧客に配るカレンダーに東郷作品を使い、取得もしました。


 その縁で、後身の安田火災海上保険が美術館構想を打ち出した際、東郷は自作を100点以上寄託(死後に寄贈)。交流があったピカソら内外の作家の作品提供でも尽力しました。初の一般公開では、東郷自ら出品作品を選び展示を指揮したというエピソードも残されています。


 「東郷青児美術館」から始まった当館は、何度か改名しています。2014年の変更時にロゴにしたのが、かつて印刷会社が着目したであろうシュルレアリスム的表現の作品「超現実派の散歩」です。この作風の絵は数点しか描かれていません。


 黒い手袋と靴を片方だけ身につけた人が、月に向かって跳ねています。自由な物の見方を象徴するようです。「美術がもたらす心の自由を大切にしたい」との思いをロゴに込めています。


 今年は開館50周年を迎えます。原点である東郷青児作品の色んな表情を見にきませんか。

 

(聞き手・佐藤直子)

 


 《SOMPO美術館》 東京都新宿区西新宿1の26の1。午前10時~午後6時(金は8時まで、入館は30分前まで)。月(祝日・休日の場合は翌平日)と展示替え期間など休み。2点は「開館50周年記念 モダンアートの街・新宿」(2月15日まで)で展示。1500円。ハローダイヤル(050・5541・8600)。

 

SOMPO美術館

https://www.sompo-museum.org/

 

 

ふるたて・りょうさん

  学芸員 古舘遼さん

 

ふるたて・りょう  東京国立近代美術館などの勤務を経て、2023年から現職。専門は日本近代美術史。

(2026年1月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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