自画像
スケッチブックを抱え、険しい顔つきの青年が荒野を歩いている。
画家が毎夏を過ごした別荘近くに住んでいたクリスティーナ。進行性の病のため歩けなかったが、持ち前の精神力ではって生活していた。彼女とその弟、そして2人が暮らしていた古い家を、ワイエスは30年もの間、繰り返し描いた。
高橋秀治館長は、構図に注目する。「外から差す光と暗い室内の境界に座るクリスティーナを、対峙(たいじ)する光と影の世界をつなぐ存在として描いたのではないでしょうか」
彼女の視線は遠くを見つめ、耳元の後れ毛が風になびいている。「画面の外の明るい景色を想像させると共に、室内に風が吹き込んでいることがわかります。習作を見ると首にはネックレスがあり、髪はなびいていません。なびく髪で風を描いて明暗をつなぎ、流れる時間を表現したのだと思います」
境界を思わせる表現や明暗を対比する構図は、約100点ある本展の他の作品にも見ることができる。