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私のイチオシコレクション

一宮市三岸節子記念美術館

「小運河の家(1)」 1972年 100.0×81.0センチ

 歴史を感じさせる、しっとりした茶色の街並み。空と家の色が画面下の水面にはっきりと映り込み、コントラストも美しい。イタリア・ベネチアを描いた「小運河の家(1)」(1972年)は、左右を建物の壁で切り取り、細い運河から奥にある家を眺めているよう。

 愛知県一宮市(旧小信中島村)生まれの三岸節子(1905~99)は、東京の女子美術学校(現女子美術大学)で学んだ洋画家です。19歳で洋画家・三岸好太郎(1903~34)と結婚して3児をもうけるも、夫が31歳で他界。子育てしながら、マティスなどに影響を受けた室内画を描いていました。

 54年に初めて渡仏し欧州各地を訪れた節子は、景色の美しさに心奪われます。68年に長男一家と南仏カーニュに移住し、旅をしながら多彩な風景画を生み出しました。

 ベネチアは、節子が特に好きだった街。観光客が少なくなる冬に足しげく通い、ゴンドラに乗りながらスケッチしました。入り組んだ運河からの街並みは、いろいろな捉え方ができて面白かったのでしょう。

 この作品のように、持ち帰ったスケッチを、印象的な部分だけを単純化して再構成し、鮮やかな色面で絵にするのが、節子の風景画の特徴と言えます。

 節子は74年にベネチアをテーマにした個展「花とヴェネチア」をパリで開き、評価を得ます。これを機に、帰国する89年まで仏ブルゴーニュ地方にアトリエを構えて風景画を描き続けました。

 「冬の終り」(1987年)は、スペイン南部アンダルシア地方の家並みを描いた連作の一つ。新たに収蔵した作品の中でも目玉の寄贈品です。

 正方形の画面に、手前から赤い屋根、白い壁、青い空へと続く奥行きが巧みに表現されています。「赤」は節子を象徴する色。色彩からは、現地の強烈な日差しを感じさせます。

 節子の生家跡に立つ当館では、収蔵品展「三岸節子 ヨーロッパを巡って 新収蔵作品とともに」を開催中です。節子が愛した景色を味わってみてください。

(増田裕子)

《一宮市三岸節子記念美術館》 愛知県一宮市小信中島郷南3147の1(☎0586・63・2892)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。320円。月曜と13日、11月4日休み。今収蔵品展は11月8日までで、9日~来年3月31日休館。

一宮市三岸節子記念美術館公式サイト:https://s-migishi.com/

 

すぎやま・あきこ
学芸員 杉山章子さん
 
 すぎやま・あきこ 愛知県出身。名古屋大学大学院修了。専門は日本近代洋画史。1999年に尾西市(現一宮市)三岸節子記念美術館の学芸員。一宮市博物館学芸員を経て現職。
(2026年10月13日、朝日新聞夕刊欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。)

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