すっかり日本に定着した韓国のお酒、ソジュ(焼酎)とマッコリ。でも、韓国ではもっと多彩なお酒がつくられている。東京で暮らすsayanuさんと、日本を拠点に活動する香港出身のフォトグラファーVIOLA KAMさんは、2024~25年、5回にわたって韓国のおいしいお酒を求める旅をして、その記録をsayanuさんがZINE(ジン=自費出版の小冊子)「韓国酒旅日記」にまとめた。
sayanuさんの肩書は冷麺コラムニスト。K-POPにはまったのをきっかけに国内外で冷麺の食べ歩きを始め、22年にZINE「冷麺の麺は黄色か?灰色か?」を出した。ZINEは個人やグループが自由な形で発行する自主制作の小冊子で、ZINEの販売ブースを設けて同好の士と交流するイベントや、ZINEを扱う書店が増えてきた。
sayanuさんは冷麺を食べ歩くうち、食堂で飲める韓国のお酒の種類が少ないのが気になった。「探せばもっとあるのでは?」という好奇心から、お酒好きの友人のVIOLA KAMさんとともに韓国酒旅を始めた。
3月4日、東京・神保町の韓国書籍専門店チェッコリで「韓国酒旅日記」のトークイベントがあった。2人が巡ったのは主にソウル、慶尚北道・安東(アンドン)、済州島。旅のとっかかりとしてソウルの安国(アングク)にある「伝統酒ギャラリー」を訪ね、試飲会で生マッコリや薬酒、米焼酎を味わった。

伝統酒ギャラリー
生マッコリは加熱処理せず発酵が続いている状態のマッコリで、賞味期限が短いので日本で飲める機会はあまりない。薬酒はマッコリの上澄み部分をろ過して抽出した清酒を指す。「試飲した生マッコリはこれまで飲んできたマッコリと違って濃く、香りも華やかでした。小さな酒蔵でつくるクラフトマッコリもいっぱいあって、日本酒に近い薬酒の存在もわかった」とsayanuさん。
さらに2人は、ソウルのバーで「安東の『一葉扁舟』というお酒がおいしい」という情報を仕入れ、ソウルから安東へ。VIOLAさんは「バーテンダーも日本酒が好きだと話していて、日本酒と韓国のお酒について情報交換しました」。

一葉扁舟(写真=sayanuさん)
近年、韓国では日本酒への関心が高まっている。安東は伝統文化が色濃く残る地域で、昔ながらの技法でつくられる蒸留酒「安東焼酎」が有名だ。「一葉扁舟」はマッコリと薬酒があり、「聾岩宗宅」と呼ばれる由緒ある伝統家屋でつくられている。
2人はそこでヌルクを天日干しにしているのを目撃した。ヌルクは韓国の伝統酒をつくるときに使われる小麦や大麦を主原料とした自然発酵の麴だ。sayanuさんは「衝撃でした。日本酒の酒蔵は外から菌が入らないよう徹底的に管理する。『何これ?』という驚きが、私が韓国のお酒に没頭するようになったきっかけ」と振り返る。

天日干しされているヌルク(写真=sayanuさん)
「一葉扁舟」は最高においしかったそうだ。済州島ではマッコリづくりにも挑戦した。「スルドガ済州バダン」という醸造所で、英語での観光客向けの体験講座に参加した。スルドガは韓国語で酒蔵を意味する。お酒を飲みながらマッコリづくりを楽しんだという。
済州島は焼酎の名産地だが、モンゴル支配下にあった13世紀にモンゴルから蒸留の技術が伝わったという歴史的背景がある。「済州島がモンゴル支配下にあったことも初めて知った」とsayanuさん。新たな発見ばかりの韓国酒旅はまだまだ続く。ZINE「韓国酒旅日記」は第3弾まで発行されていて、チェッコリで販売している。
成川彩(なりかわ・あや)
韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。新著にエッセー「映画に導かれて暮らす韓国——違いを見つめ、楽しむ50のエッセイ」(クオン)。2023年に鶴峰賞(日韓関係メディア賞)メディア報道部門大賞を受賞。
◆「現場発 Kカルチャーの最前線から」は今回が最終回です。これまでお読みくださり、ありがとうございました。

「映画に導かれて暮らす韓国」の購入サイト URL表示場所
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910214528