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私の描くグッとムービー

黒川博行さん(作家)
ノーカントリー(2007年)

ドライさ光る手腕 映画は僕の友

 よき映画を「友」としてきました。高校生の頃、映画館で親しむようになりましたね。1960年代でしたから、かれこれ60年ほどになりますか。「俺たちに明日はない」「卒業」といったアメリカン・ニューシネマ。007シリーズの初期作品が見たくて、混み合う映画館で立ち見したこともありました。

 「ノーカントリー」は指折りの作品です。麻薬取引がらみの銃撃戦があった現場に行き、見つけた200万ドルを持って逃走を図るベトナム帰還兵。彼を追い詰める殺し屋と彼らを追跡する老保安官。

 国境をまたいだスリリングな展開です。監督のコーエン兄弟がさすがの手腕をみせ、本作は4部門で米アカデミー賞に輝きました。助演男優賞を受けたハビエル・バルデムが演じる殺し屋に、すごみを感じます。迷いなく人を殺(あや)めつづける。骨が見えるような大けがを負っても、うろたえない。徹底的にドライな作風にひかれました。

 いまはネットフリックスやアマゾンプライムなどで、毎日のように映画を見ています。臨場感、スピード感。場面の切り替わりで利かせる省略の妙は映像の強みですが、小説世界にも通じます。

 それからセリフですね。映画からはしゃれた言い回しがしばしば聞こえてきて、気がつくとメモしています。

 僕の小説も、登場人物のセリフ(会話)で回すのが生命線です。軽妙な大阪弁と評されることも多いのですが、実は呻吟(しんぎん)しながら、文字にする5倍ほどの分量を書いてはつづめ、仕上げています。だから遅筆にはなるのですが、映画に負けないようなセリフがつむげたら、幸福な思いが湧いてきます。

(聞き手・木元健二)

 

  
   監督=コーエン兄弟   

 製作国=米国

 出演=トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリンほか

 

 くろかわ・ひろゆき 1949年生まれ。京都市立芸術大彫刻科卒。2014年「破門」で直木賞、24年「悪逆」で吉川英治文学賞。「国境」が井筒和幸監督によって映画化される。
 
(2026年6月12日、朝日新聞掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます)

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