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目利きのイチオシコレクション

民芸【上】 濱田庄司記念益子参考館

運動の出発点となった古陶磁

「スリップウェア 鳥文皿」 1792年、イギリス
「スリップウェア 鳥文皿」 1792年、イギリス
「スリップウェア 鳥文皿」 1792年、イギリス 「上ん台」 1850年頃、1942年移築

 民芸が再び人気です。地方の手仕事が「民芸」として広まったのは、1920年代半ば、思想家・柳宗悦が中心となって立ち上げた民芸運動がはじまりです。名もなき作り手の日用品に「用の美」を見いだす。そのコレクションは、柳が創設した日本民芸館が代表的ですが、今回は柳とともに陶芸家として運動に関わった私の祖父・濱田庄司と河井寛次郎の対照的なコレクションを2回に分けて紹介します。

 濱田の作品や、彼が収集した国内外の民芸品を所蔵するのが、濱田庄司記念益子参考館。20年代、バーナード・リーチとともに渡英した濱田が、持ち帰った英国の古陶磁「スリップウェア」もここにあります。柳がこれを見ようと、濱田の滞在する京都・河井宅を訪れたことが、3人が親交するきっかけとなり、民芸運動につながりました。スリップウェアとは、粘土を水で溶いて文様を描いた陶器のこと。濱田はこれらをずいぶん研究し、自分の創作にも応用しています。

 「自分の作品が負けたものを買う」が濱田の口癖でしたが、祖母からは「たまには自分の作品で勝ちなさい」と言われていたとか。でも、実は作品を所有すること自体が好きだったようです。中でも最大のものが丸ごと移築した農家「上(うえ)ん台」。生活する家であり収蔵庫でもあり、生前はコレクションであふれていたそうです。

(聞き手・石井久美子)


 どんなコレクション?

 濱田庄司(1894~1978)の初期から晩年にいたるまでの諸作品と、河井寛次郎やバーナード・リーチなど親交のあった作家の作品、濱田が収集した国内外の民芸品や家具など、約3千点を所蔵。近郊から移築した石蔵など5棟に展示している。1977年に濱田の自宅の一部をもとに開館した。工房や登り窯も見学できる。濱田がイギリスから持ち帰ったスリップウェアと、それを参考にして作った作品は、12月17日まで「SLIP WORKS 泥しょうの仕事展」で展示。

《濱田庄司記念益子参考館》 栃木県益子町益子3388(TEL0285・72・5300)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。800円。(月)((祝)の場合は翌日)休み。

濱田琢司さん

南山大人文学部教授 濱田琢司

 はまだ・たくじ 文化地理学者。関西学院大学大学院博士課程修了。濱田庄司は祖父。近年は、モダニズムと民芸運動との関係を研究。著書に「民芸運動と地域文化」、共著に「民芸運動と建築」ほか。

(2017年8月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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