刀身の曲線美、刃文の模様、拵(こしらえ)の装飾――名刀を前にするとハッと息をのみます。見た目もさることながら、天皇家や戦国大名など時の権力者が持ち、受け継がれた日本刀は、歴史の流れと深く関わっています。その点も、人々を魅了する理由の一つです。
久能山東照宮は、徳川家康を祀(まつ)った神社。その境内にある博物館は、家康が生前身の回りに置いた貴重な品々がまとまって収蔵されています。
紹介するのは、鎌倉時代の筑後の刀工・三池光世(みいけみつよ)作と伝わる、家康が愛した太刀(たち)。家康が臨終の際に「この太刀の切っ先を、西に向けて置くように」と命じたそうです。大坂の陣に勝ち天下統一を果たした家康も、西国にいる豊臣秀吉の遺臣たちが気になったのでしょう。
付随の拵は家康の趣向が満載。黒一色に金の装飾というのは、当時の武士の間で最も品格が高いとされていた身だしなみです。柄(つか)に巻いた革の間から、波とカワガラスの形の目貫(めぬき)がのぞき、鐔(つば)のすぐ上の、髪をなでつけるための笄(こうがい)は、龍の意匠が華やかです。
鎌倉時代の相模国の刀工、行光(ゆきみつ)の脇指(わきざし)も、付随の拵と一緒に展示されます。今回の三池と行光は大小のそろい物。脇指の拵だけに鐔がないのは珍しいですが、帯に指すのに邪魔にならなそう。その他、貞宗(さだむね)の脇指も併せて、家康が確実に腰につけていた3点がそろいます。どうぞお見逃しなく。
(聞き手・笹木菜々子)
★どんなコレクション?
徳川家康を祀った久能山東照宮に伝わる宝物を保存・管理している。1611年に家康がスペイン国王から贈られた洋時計、所持した刀剣、徳川家歴代将軍の具足、弓矢や軍配を始めとする調度品など、所蔵品は2千点を超える。常設展示を中心に、年数回の展示替えを行いながら、徳川家にまつわる名品を展示している。開館は1965年。今回紹介した刀身2点と拵2点は、いずれも9月17日~10月9日に展示予定。
《久能山東照宮博物館》 静岡市駿河区根古屋390(TEL054・237・2437)。午前9時~午後5時(入館は15分前まで)。400円、小中学生150円。原則無休。
佐野美術館 館長 渡邉妙子 わたなべ・たえこ 1937年生まれ。慶応義塾大学通信教育課程卒業。日本刀研究家・本間順治氏のもとで学び、現在は日本美術刀剣保存協会の評議員を務める。静岡県文化奨励賞など受賞歴も多数。著書に「日本刀は素敵」「名刀と日本人」ほか。 |